櫻井図南男「事態神経症に就て」

櫻井図南男「事態神経症に就て」『福岡医学雑誌』35(1942), 1283-1318.
日本における戦争神経症と外傷性神経症についての古典的な論文の一つ。必読にして傑作の論文。「事態神経症」というのはブロイラーがある特定の事態に基づいて発生するものを「事態精神病」Situationpsychoseと呼んだことに倣って作られた用語である。(おそらく櫻井による造語である)その形成を理論的に説明し、その理論を用いて昭和6年から15年にいたるまで九大精神科で扱った220例の外傷性神経症を分析したものである。理論については、クレッチマー、ブロイラー、パブロフらの理論から、もともとは意志的に始められた行為だが、それが固定して症候が自動化して反射路が形成されて「機会装置」 Gelegenheitsapparat となり、条件反射のように短絡的なものが形成されていくという経路がコアとなる。さらに、この論文の主体は、この経路が作られる病前性格についての議論である。下田の執着気質・森田の神経質の概念を用いて、病理的な心理体制が作られていく過程が分析されている。