『死霊解脱物語聞書』

『死霊解脱物語聞書』小二田誠二解題・解説(東京:白澤社、2012)  寛文12(1672)年に起きた憑霊事件を取材して1690年に出版された江戸時代のルポルタージュ。のちに曲亭馬琴鶴屋南北三遊亭円朝などによって、小説・歌舞伎・落語などに翻案された。  1601年の殺人と1647年の殺人の二つの事件が、1672年の憑霊事件に集約していき、二つの殺人事件で殺された人物の死霊が僧の力によって解脱する物語である。1672年の憑霊事件では、菊という14歳の娘が苦しみはじめ、調べてみると累という25年前に死んだ女の霊が憑依していることがわかる。累は自分が夫に殺されたこと、その夫は、累の死後に結婚を5回繰り返し、最後に結婚した後妻に菊を生ませた。累が殺されたのは容姿も醜く性格も悪い女であり、夫はその財産を手に入れて別の女と結婚するつもりであった。  累の死霊は菊に憑依してはそれから離脱することを繰り返していた。最終的に累が解脱したあと、新たに菊に憑依したのが、1601年に殺された「助」の死霊である。助は片目と片方の手足が不自由な障碍者で、そのために、母親と義理の父に殺される。この義理の父と、助の母親の間にできた娘が累であり、累の醜さは、義理の兄弟にあたる助の障碍を思わせるものであった。助は、累が成仏したのを見て、自分も成仏したいと思って菊に憑依したという。