英語を組み込んだ大学の授業

これからの大学にとって、学生が母国語以外の言葉で高等教育の成果を表現するスキルを身に着けることは最重要な目標の一つである。私も大学の教師になって15年以上になるが、その間、色々と方法や基本的な考え方を変えながら、どうやって外国語を大学の授業に組み込むかを試してきた。当初は、私自身が受けたような、外国語のマテリアルを読解する能力を身に着けさせる授業ばかりであったが、この5年ほどは、外国語で表現する能力を身に着けさせる授業を目指して、色々な方法を試してきた。場所は、主に慶應と東大の大学院と学部である。その中で、紆余曲折を経て、今年の授業で使っている方法を紹介する。私自身にとっても学生にとっても使いやすく、たぶん基本形として使い続けるだろうと思う。

 

1.  授業でマテリアル(一次資料でも研究文献でもいい)について要約・議論・考察する

2.  授業のあと、学生は、そのマテリアルについてのエッセイを英語でまとめる。1000語程度だから、わりとたっぷりと書くスペースがあるが、授業で十分に議論した後だから、素材も十分にある

3.  そのマテリアルをメール添付などで教師に送り、教師はコメントを入れて翌週の授業で返却する

4.  翌週の授業では、マテリアルについての議論―エッセイ執筆―コメントのサイクルが繰り返される。

 

この形式の授業を今年度から始めたが、私も学生も手ごたえを感じている。ポイントは、日本の大学で行われている授業に非常に近いことだと思う。日本の学生が戸惑うような異質な過程はなく、エッセイを英語で書くという自宅で行う課題が新たに付け加わっただけである。

 

いくつかの注意点があるので記しておく。

 

1.  マテリアルは、小さな一次資料や研究文献がふさわしいと思うが、学生にプレゼンをさせてもいい。その報告者は、自分の報告をほかの学生が英語で議論したエッセイを得ることになる。これを意外に面白がっているし、たしかに外国語環境におく効果がある。

 

2.  この仕組みは、英語でエッセイを書く能力だけを育てることになり、英語でディスカッションする能力という重要な部分をまったくおろそかにしている。何回に一回か、英語でディスカッションする回があってもいいかもしれない。私個人の経験でいうと、イギリスに留学した時に身に着けるのに一番時間がかかったのはこの能力だった。