レナード・ダーウィン『優生學とは何か』(1937)

レナード・ダーウィン『優生學とは何か』齋藤茂三郎訳(東京: 雄山閣, 1937

レナード・ダーウィン(Leonard Darwin, 1850-1943)は、進化論の博物学者で著名なチャールズ・ダーウィンと妻エマの間8番目の子供・4番目の息子として生れた。軍隊での技術系のキャリアを退役したのち、国会議員として活躍。61歳から優生学の論客となり、フランシス・ゴールトンの後を継いで優生学教育協会の会長となる。ゴルトンは父親チャールズ・ダーウィンの従兄である。1926年に The need for eugenic reform, 1928年に What is eugenics? を出版して、優生学のスポークスマンとして一定の影響力を持った。日本語訳は斎藤茂三郎によるもの。永井潜、三宅鉱一、古屋芳雄、杉田直樹らが書いた雄山閣の優生学シリーズの一環である。イギリスの優生学と日本の優生学の共通点と相違を知るのに最適なマテリアルである。

 

まず最後の17章が面白い。悪しき結婚が多くてはいけない。下等の人間には断固たる処置が必要である。精神病は絶滅されない。それは覆われるのでかえって広く社会に撒布する悪疾となる。いとこの結婚は非難するにあたらない。[ ダーウィン一族だから?] 性病については医師の証明書が必要、精神病についてもかかっていない証明書を交わすといい。優生学の目的には、真の愛国心、道徳観念が必要であり、もっとも大きな敵は利己心である。

 

イギリスは人口過剰であるから、出生率全体を減少させることが必要。そのためには社会の下層で現在は出生率が高い層が子供を減らすことが一番いい。優劣家系のものはより多くの子孫を持ってよい。

 

【議論】

これがイギリスと日本の最も大きな違いである。より正確にいうと、イギリスにおける優生学とその効果と、日本の戦前の優生学の政策とその効果の違いである。日本の優生学は戦前においては人口増加という命題の中での優生学であった。劣悪者が子供を減らすことではなく、優越者が子供を増やすほうが日本の優生学の流れにあっていた。イギリス・アメリカ・ドイツ・北欧はその逆であったため、劣悪者の出生を減らす手段が前景に出た。鍵になるのが、出生をエンカレッジしたイタリアの動きであろう。日本の優生学も戦前はそのパタンであった。ううむ。安っぽい議論だな。

 

【アイデア

子供に対する親の責任。子供の出生が任意的な選択の結果になった場合。60

 

敢えて幼稚な形で問いをたてよう。<子供のありかたに対して親が責任をとる> 現在のわれわれには一見自然だけれども、これはいつ形成されたのだろうか。子供がどうであると親の責任なのだろうか。