松井彰彦『障害を問い直す』と大谷誠・山下麻衣「知的障害の歴史―イギリスと日本の事例」

松井彰彦・川島聡・長瀬修『障害を問い直す』(東京:東洋経済新報社2011

松井彰彦「<ふつう>の人の国の障害者就労」松井彰彦・川島聡・長瀬修『障害を問い直す』(東京:東洋経済新報社2011, 165-194.

大谷誠・山下麻衣「知的障害の歴史―イギリスと日本の事例」松井彰彦・川島聡・長瀬修『障害を問い直す』(東京:東洋経済新報社2011, 196-228.

松井彰彦は優れた経済学者で、ゲーム理論で経済と福祉を一つながりに考える中で(はい、自分が何を言っているのかよく分かっていません 笑)、障害の問題の実証と理論を結びつけようとしている。その運動に、いわゆる障碍学の学者だけでなく、大谷誠や山下麻衣といった若手の障害や医療の研究者が参加していることは大きな意味を持っている。

 

山下は、大谷を含めて若手研究者を主力にした『歴史の中の障害者』を近刊し、それはドイツ、イギリス、日本にまたがるものであると同時に、松井を含めて、歴史学者ではないものたちが執筆に参加している優れたプロジェクトであった。

 

松井の論文から重要な論点をメモ。アンデルセンの類型で福祉国家を三分して、福祉サービスがどれだけ市場に依存せずに権利として与えられるかをみると、1) 自己責任原則で、競争からこぼれた人を少額の給付金ですくいとる自由主義レジーム(アメリカ・イギリス)、2) 強制力のある社会保険と、それに伴う強力な給付を特色とする保守主義レジーム(ドイツなど多くのヨーロッパ国家)、3) 基本的で平等な給付金を、過去の所得や保険料納付によらず、すべての人に給付する社会民主主義レジーム(スカンジナビア)と分けることができる。日本は、総じて 2) のレジームに入っているが、実際にはダブル・スタンダードであり、特殊なニーズを持つ人々に対する給付は、自由主義レジームに近い。だから、人々は、その烙印を嫌って、障碍者というステータスを選択しない。「選択」という概念がキモである。

 

私がこの数年間ずっと悩んでいる問題は、精神病院への入院は、どのような意味で「選択」なのかを明らかにすることである。でも、松井のゲーム理論が助けになるのかどうかは、この小文を読んでもまだよく分からない。素晴らしく明快で深みがある議論なのだけれども。