ナイチンゲールの「ランプ」

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クリミア戦争の負傷兵の看護に赴いたナイチンゲールを国民的英雄にしたのは、1855年の『ロンドン画報』に掲載された「スクタリの病院におけるミス・ナイチンゲール」と題された版画である。(1)この像は、「ランプを持つ婦人」としてのナイチンゲールを聖人化の原型として使い尽くされ、同じ姿をより劇的にしたイメージがイギリスを覆うこととなった。(2)

 

かつての医学史には好古趣味的な要素が強かったから、「そのランプはどんなランプ?」「『ロンドン画報』の描写は正しいの?」という疑問が出てくる。ナイチンゲールが持って病棟を回っていたのは「本当はどういうランプか」という疑問である。わりとよく調べられたらしい。特に、クリミア戦争にはイギリス軍だけでなく他の国の軍隊、特にトルコの軍隊もおり、トルコはトルコのランプがあったはずだから、ナイチンゲールはどんなランプを持っていたのかという疑問は、調べ甲斐がある問題になる。(やれやれ)(3)は、クリミア戦争時に使われたトルコ風のランプである。茨木保の漫画『ナイチンゲール伝』は、どこかで読んだのだろうが、このランプで一貫しており、『ロンドン画報』が描いているランプは間違っているという方針である。(4)は、アルコールランプのようだが、ナイチンゲール博物館によれば、これを所有して用いていたのではないかと思われているとのことである。候補としては『ロンドン画報』のタイプ、トルコ風のタイプ、アルコールランプ風のタイプと三つあることになる。

 

正直なところ、どれでもいいと私は思う。このあたりが「ランプ」と書けば済む歴史学者をしているからである。漫画だと、その「ランプ」をどう描くか、真剣に考えなければならないのだろう。