医学史における症例の読み方

Theriot, Nancy, “Negotiating Illness: Doctors, Patients, and Families in the Nineteenth Century”, Journal of the History of the Behavioral Sciences, vol.37, no.4, 349-368, 2001.

 

大学院の医学史入門セミナーでは、方法論が鮮明に描かれている著作や論文を多く読ませることにしている。私自身の志向もあって、医者と患者の双方がかかわる素材が多い。その中で症例誌の分析の方法を教えるときには、バーバラ・ドゥーデン『女の皮膚の下』がもちろん定番だけれども、それを補うような論文、あるいはそれに取って代わるような論文を探している。この論文はその代わりになるかもしれない。著者のNancy Theriot はアメリカの女性史家で、家族と医療の問題についての一連の優れた業績がある。この論文では、ドゥーデンの関心―医科学の対象object としての患者が、どうして治療に参加する主体になりうるのか―を軸にしている。それだけでなく、分析の対象である症例誌を取ってくる場所が工夫されていて、医学書や医学論文などに掲載されているさまざまな症例という、目に入りやすい場所である。もちろん、病院のアーカイブの診療録などのほうが一般により豊かな資料ではあるが、肝心のマテリアルがすぐにアクセスできるというわけではないし、医学論文の中の症例も独自の複雑性がある資料である。(たしかマルコム・ニコルソンが18世紀の医学書を使って分析していた。)来年は、ドゥーデンと一緒に、このマテリアルを使ってみよう。