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「東電OL殺人事件」

桐野夏生『グロテスク』(東京:文芸春秋社、2006)

1997年の3月に起きたいわゆる「東電OL殺人事件」に取材した小説。事件そのものは、慶応の経済学部を卒業して東京電力という一流企業に勤務する39歳のエリート女性が渋谷で殺されたというものであるが、彼女が売春行為を行っていたことをめぐって報道が過熱した。個人的な話をすると、私が慶応の経済学部で教え始めたのとまったく同じ時期に起きた事件であるが、一切の誇張抜きで、私はこの事件のことをほとんど憶えていないし、被害者が慶応の卒業生であったことも今回この本を読んで初めて知ったくらいである。

 

物語は二つに分かれ、一つは主人公たちの高校時代について、もう一つは売春と殺人の事件が起きるころについての記述である。前者では、「Q学園」と呼ばれている慶応の高校に通う女子高生たちの学校と家庭の様子が描かれている。日本の中流階級とその周辺の家庭と、慶応の高校が持つ歪みが、どのようなひずみを生徒たちの人格に作り出していくかという物語は、どこまで現実をとらえているのかは分からないが、迫力がある文体と説得力があるストーリーで語られている。後半では、売春をした登場人物の日記という形式で、彼女がそうなるにいたった動機と家庭が説明されている。可能な説明の一つという印象を私は持った。中国人の移民労働者とオウム真理教の事件の話にも拡散して、これも面白く読むことができる。