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「自家中毒」理論と19-20世紀の精神疾患の病因論・治療論

精神疾患の原因としての「自家中毒」の理論

 

Noll, Richard, “Historical Review: Autointoxication and Focal Infection Theories of Dementia Praecox”, World Journal of Biological Psychiatry, (2004), 5, 66-72.

 

クレペリンを軸にして、19世紀末から20世紀前半までの精神病の原因としての「自家中毒」の理論を検討した論文。クレペリンの早発性痴呆(現在の病名で言うとおおよそ統合失調症に対応する)の原因と推察したものの中で最も重要なのは遺伝であり、この理論は実践と行政の中の優生学に適用された時に学術的な正当化を与える要因となった。もう一つの原因としてクレペリンが考えていたのが、「自家中毒」の理論である。クレペリン自身は、患者が急激に早発性痴呆になる過程を観察する中で、その変化は体質の問題というよりも、実体がある病的な何かが脳に影響を与えているのではないかと考える立場を取っており、その中で自家中毒の理論に強い興味を示し、最終的にはこれを原因の一つと推察できるのではないかと考えていた。ちなみに、みすずから出ている翻訳の精神分裂病の巻でもその部分が訳されている。

 

自家中毒は、autointoxication, Selbstvergiftigung.  現在の医学事典では、腸内の細菌がタンパク質を分解したときに形成する CO2 やアミン酸などの有害物質が体内に吸収されておこる障害だが、しかし現在ではこれらの物質に障碍性はないと考えられているという記述がある。この論文の記述では、1930年代に精神疾患の原因説としては退けられたとあるので、過去の理論ということになるのだろう。この理論は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、細菌学と内分泌学を背景に作られたものである。ドイツとフランスの医科学者たちが、精神疾患や他の疾患の原因として「自家中毒」の理論を打ち立てた。体内に細菌の病巣が作られ、それが脳や臓器に影響を与えるという考えである。ドイツの Hermann Senator, フランスの Charles Jacques Bouchard などが重要。 Bouchard は、有機体は正常な状態でも異常な状態でも、毒を受容し生産する場(英語は laboratory )であり、人間は自らを毒してそれによって自殺する可能性を常に持っている有機体であるという面白い記述を書いている。フランスの精神科の医者たちが発表した、精神病患者の尿を動物に与えてその変化を観察する実験も行われ、マニアの患者の尿を動物に与えると興奮と痙攣が起きて、メランコリアの患者だと鬱と不安と昏迷が起きるというような研究もあったとのこと。

 

さすがにこのような研究ではないと思うが、クレペリン自家中毒説に好意的であった。しかし、彼は通常考えられていた腸内で発生した物質による自家中毒ではなく、内分泌腺、特に性腺に関連する自家中毒であると考えられていた。この説は、もちろんクレペリンが慎重さを保ちながらも、1890年代から1913年の教科書の最終版まで示唆し続けていたものである。アメリカの精神病医 Henry Cottonがこの説と歯科的な解釈を結び付け、精神病院に入院した患者を抜歯し下顎部を除去した話題は、スカルの書物に詳しい。