過去の医者がどのように病床日誌を読んだか―昭和10年代の外傷神経症

櫻井図南男・中村康一次「外傷神経症の臨床統計」『臨床と治療』22巻3号(1945), 186-188.

昭和10年1月より昭和18年12月のあいだに九大精神科外来を訪れた外傷神経症患者208名の病床日誌を分析した論文。短いが、当時の医者が必ずしも自分が記入したわけではない病床日誌をどのように分析したかを教えてくれる貴重な文献。

 

208名中女子は2名のみ。職業は圧倒的に多いのが「鉱員」で、職場で発生した作業事故が大半。10名程度の「半島人」がいる。このあたりはシンプルに病床日誌を読んだデータである。重要なことが「病前性格」。ここは、外傷神経症の理解のために必要な特徴であるため、慎重に病床日誌を読んでいる。執着性のものが42%、非執着性のものが28%であるが、これらは注意しなければならない。「執着性格の表現鳴る熱中性、責任感強、努力的などの言葉は、患者が質問に応じて自己を飾らんとして故意にこれを強調する場合もある」からである。「供述が患者自身によってなされたものでは、この点に十分の警戒を必要とする」とある。学業成績についても、同じように本人自身の供述を全部信用することはできない。

 

怪我が微少な場合には、「比較的年長で世故に長け、教養の低いものが佯詐に違い形で外傷神経症を起こすことが多いように思われる。特にその病前性格にも執着性の要素が乏しい」「重症のものでは事故の受傷に対し患者はある種の自身を持っているが、微傷のものでは全然自信を持つことができぬ。この中間で曖昧な自身のもとに不安や器具を濃厚に現す」「病床日誌の職業欄を見るに、鉱員なるにかかわらず会社員と記されているもの8例、工員なるにかかわらず同じく会社員と記されているもの3例。このあたりにも外傷神経症患者の率直でない心理を見出すことができるように思われて興味を感じた」