小松左京と原子爆弾とタコの火星人

小松左京「なぜSF小説を書きはじめたのか」コレクション 戦争と文学 『イマジネーションの戦争』月報4(集英社、2011.9)

少年時代は好奇心旺盛、本はよく読んでいた。漫画は「幼年倶楽部」連載の「タンク・タンクロー」、「少年倶楽部」の「のらくろ」。少年小説は海野十三山中峯太郎高垣眸江戸川乱歩など。軍事教練でゲートルを巻いて、きちんと巻くと女性にもてると思っていたが、女学生たちの憧れの仕事は白衣の天使で、憧れていたのは軍人の中でも尉官で あり、ゲートルなど巻いていない軍人であった。工場動員は悪い面ばかりではなかった。戦争は暴力で征服するのではなく、「めでたく終わる」ことを望んでいた。

 日本の状況がよくないと思ったのは、決定的だったのは原爆だった。「戦争が始まった頃、マッチ箱一つくらいの大きさで富士山が吹っ飛ぶほどの破壊力がある原子爆弾というのが、少年小説に出ていたけれども、そんなものはタコの火星人と同じで全くの空想だと思っていたので、それが現実に完成したことには驚いた。」

原子爆弾はタコの火星人と同じだと思っていたのが現実化したので驚き、これでももうおしまいだと思ったとのこと。なるほど。たとえば『エイリアン』の怪物が現実に現れたり、『ターミネイター2』の新型アンドロイドが目の前に現れたら、これはもう何をしてもだめだという思いが確かに湧いてくるだろう。それより面白いのは、小松少年が原子爆弾は空想だと思っていたということである。しかし、言われてみたら、実は私も子供の頃に読んだ「リニアモーターカー」は、現実味がある話として聞いていなかったかったかもしれない。