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医学史の教科書の構成様式について

Duffin, J. (1999). History of medicine : a scandalously short introduction. Toronto, Toronto U.P.

 

医学史の教科書や標準的な歴史書は、誰を読者にして、その読者に何を伝えたいかによってその構成が変わってくる。大きく分けると、医学部や看護学部などの医療系の学生向けに書かれたものか、歴史系の教科書や一般向け書物として書かれたものかに二分することができる。医療系の学生向けに書かれた教科書で、その水準が非常に高いものが、ジャカリン・ダフィンの著作であり、その特徴は、医学生が学ぶ講座に対応した章立てを持っていることである。導入と結論を含めて15の章からなるが、それぞれの章は、解剖学、生理学、病理学、薬学などの主題によって分かれており、それぞれの章の中で、古代から現代までの時間軸に沿ってそれぞれの主題の歴史が記述される構成になっている。一般向けの歴史書であれば、イントロダクションの後に、まず古代の医学を記述して、その中の下位分類として解剖学や生理学などの節などが出てきて、その次に中世の医学に移り、そこで必要があれば解剖学や生理学などに触れるという構成になるだろう。しかし、この書物では、時代順に並べるという構成ではなく、医学生が学ぶ講座や科目に対応した章立てになっている。この構成では、それぞれの章を読むたびに、冒頭でヒポクラテスやガレノスに出会う形になり、歴史系の構成では、時代ごとの章で、何度も解剖学や生理学の記述が現れるという形になる。

 

私は医学系の教育を受けていないので、ダフィンの構成そのものを取ることはできないが、ポーターの Blood and Guts: A Short History of Medicine (2002) が、少し似ている構成を取っていることには注意したい。ポーターの書物は、8つの章からなり、第一章から上げると、Disease, Doctors, The Body, The Laboratory, Therapies, Surgery, The Hospital, Medicine in Modern Society という章立てになっている。これはダフィンの講座別の構成とは違い、医療を医学・文化・社会にまたがる構成体として見た時に、どのような要素があるかという方針であるが、これらの章のそれぞれにおいて、古代から現代までの歴史が記述されるという記述の方針を取っているという点では同じである。Disease の章では先史時代から始まり、古代の疾病、中世のペスト、コロンブスの交換、梅毒、コレラHIVというように時代順に記述し、Doctors の章では、先史時代のものと考えられるシャーマンなどからはじまり、ヒポクラテスなどの古代の医者、中世と近世の医者、そして19世紀末までの医者や代替療法者を記述するという流れになっている。

 

なお、ダフィンの著作は、最新の社会史・文化史系の医学史の著作の洞察も取り込んで水準が非常に高く、興味深いエピソードなども配列されているし、ポーターの著作は科学史系の医学史の成果も多く取り込まれていることを付言しておく。ポーターの著作は翻訳されているが、ダフィンの著作を医療系向けに翻訳することも一つのアイデアだろう。これを実際に医学史の授業で教えることができる医療関係者が日本にいるかというのは別の問題ではあるけれども。

 

ダフィンの書物、ポーターの書物とその翻訳の三つのサイトを貼っておく。

 

 

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