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食養生と感染症の防止―ルドルフ・フィルヒョーの意見と消費社会の問題

食養生感染症の防止についての概説的な性格を持つ論文をまとめている。あと少しで先方に送ることができる。そこでつかった小ネタと理論的なメモ。

 

著名な病理学者のフィルヒョウが、食養生に注目する視点を嘲笑して、何を食べろとか何を食べるなとかいう話は、金持ちの消費者を対象にした指導であって、感染症の被害者の多くを占める貧民には無関係であると書いている。これは事態の一つの側面を適確に把握しており、このような考え方は、公衆衛生が政治的な側面を持ち、条件が悪い土地に住む貧民に資源を分割するような行政を行うべきであるという後の発展の重要な要件となった。

一方で、ある意味でフィルヒョウが考えている政治的な方向に歴史学者が集中したため、感染症の防止が持っている経済の側面、特に消費社会の成立との関係の研究がなおざりにされてきた。消費社会において、購入する商品、特に食物を選択できる状況においては、どのような食物が感染症を防止し、どの食物が危ないという問題は、感染症の防止の大きな要点であった。その部分の歴史はどうなっているのか、それを取り上げるのがこの論文の目標である。

この研究は、政治的な文脈を補完して経済と消費をみるだけではなく、感染症の予防の公衆衛生の歴史を解釈してきた文脈を、より広い地域に適用するための道具を作るという意味もある。周知のように、アッカークネヒトの古典的な研究、そして1990年代以降のボールドウィンの研究が示したことは、公衆衛生の歴史、特に隔離収容を行うかどうかという判断は、その国家の政治体制と深い関係がある。簡単にいうと、19世紀のロシアやドイツ圏のような専制の度合いが高い政治体制においては、隔離収容が選択され、同じ時期のイギリスやフランスのような民主的でリベラルな体制においては、そうではなくて環境改善の方向が取られた。これはある意味でその通りである。しかし、この枠組みにおいては、経済と消費社会の問題が考慮されていない。ヨーロッパの国家の中で較べた時に、政治体制が大きな影響を持つということに基づいた理論的な枠組みである。

その時に、政治体制においては、ヨーロッパ的な意味での民主制からはほど遠い日本が、アッカークネヒトの原則に適合しない形で、なぜ隔離収容を行わなかったのかという問題は、単に日本の問題を解くだけでない。そこに、隔離収容を行わなかった理由として、すでに十分に発展していた消費社会が存在したからであるという理論を考察することで、政治と経済の双方の発展、そして両者の対立と拮抗という軸を導入できる。

 

Virchow on the issue of class and epidemics in 19c Germany

“It is not clear that our struggle is a social one, that our job is not to write instructions to upset the consumers of melons and salmon, of cakes and ice cream, in short, the conformable bourgeoisie, but is to create institutions to protect the poor, who have no soft bread, no good meat, no warm clothing, and no bed, and who through their work cannot subsist on rice soup and chamomile tea?  May the rich remember during the winter, when they sit in front of their hot stoves and give Christmas apples to their little ones, that the ship hands who brought the coal and the apples died from cholera.  It is so sad that thousands always must die in misery, so that a few hundred may live well. "

(cited in Howard Waitzkin, “One and Half Centuries of Forgetting and Rediscovering Virchow’s Lasting Contributions to Social Medicine”, Social Medicine, vol.1, No.1, Feb 2006, 5-10, 7)