大英博物館の会員誌と<記憶の有罪判決>

博物館や美術館の会員になるのが好きだから、大英博物館の会員にはもちろんなっている。特別展に無料で入れるのがメリットだろうけれども、楽しみなのは年に4回刊行される季刊誌である。今回はもちろんスキタイ展の読みごたえがある記事がある。他にもいい記事がたくさんある。こういう記事の感覚を呼吸しておくことが、学者のためだけの学問ではなく、社会に根付いた学問で、必要な時には有効なアウトリーチができる学問のセンスを養うのに役に立つのだろう。これは、少しいやらしい話だけれども、おそらく意味があることだと思う。
 
季刊誌の最後には、学芸員選択の一点という、これも面白い記事があって、今回はローマ帝国の時代の石碑の断片の話。要約された部分が多い文章が、過去の人々が日常的に行っていたことを本当に伝えてくれる部分であるとか、歴史学者としてはそうそうその通りと嬉しくなることがたくさん書かれている。それから、古代ローマの damnatio memoriae <記憶の有罪判決>が現れている銘文であるとのこと。記憶の有罪判決が出ると、彼や彼女(?)に関する絵画や記録や銘文などから、その肖像や名前が消去されるもの。大英博物館の取り上げられた銘文からも、人物の名前が消されている。その対象になった人物が、多少の時間差をともなって二人いて、地方長官とローマ皇帝自身であるとのこと。皇帝が damnatio memoriae にあったというのもすさまじい話であるが、周囲から徹底的に嫌われ憎まれていた皇帝で、死んだとたんに、記憶の有罪判決となったとのこと。
 
Wikipedia の damnatio memoriae が面白い。1940年にスターリンの隣にいた人物が消された例なども掲載されている。