永井隆「原子爆弾救護報告書」

今日の大学院の授業で素晴らしいテキストを読むことができた。訪問研究員で来年度から国立シンガポール大学で教職に就く秀才のシーリン・ローさん Shi Lin Loh が選んでくださったものである。

テキストは、永井隆原子爆弾救護報告書」である。ローさんに教えていただいたウェブ上にアップロードされたものを参照した。アップロードは、長崎大学の原爆後障害医療研究所のサイトにされている。現在の医療アーカイブズの世界の牽引者の1人になっている広島大学の久保田明子さんが編集したもので、原文をもとにした正確なテキストがとても読みやすい形になっている。テキストについての文献上の説明もどこかにあると思うが、今日の授業でローさんに伺った話だと、1945年の8月から10月まで医療活動の隊長として仕事をした永井が、その仕事を終えてわりとすぐに書いたものではないかとのこと。

http://www-sdc.med.nagasaki-u.ac.jp/abcenter/nagai/index.html

学問的な分析の対象として、いくつものテキストの重層がある。基本は永井が原爆投下直後から二か月ほど携わった医療に関する報告書であるし、その部分も面白い。しかし、そこよりも面白く複雑なのは、他の多くの章で表明されている、原爆と医療についてのさまざまな水準の個人的な思いの記述である。

歴史学者科学史や医学史の研究者はもとより、文学者、宗教学者、医療人文学の学者たちが短いイントロをつけて、文庫本か新書の形でまとめると素晴らしいのだろうと思う。あるいは、現在の英訳が必ずしも優れていないとのことなので、優れたイントロダクションを持つ新たな英訳が作られる日も近いのではないかと思う。

ここでは学術的な話をしたが、内容も胸を打つものであった。人生の問題を真面目に問いかけることができるテキストである。