『外科の夜明け』と『ドクター・アロースミス』

Thorwald, Jürgen, 和基 大野, 孟司 養老, and 泰旦 深瀬. 外科の夜明け : 防腐法-絶対死からの解放. 地球人ライブラリー. Vol. 009: 小学館, 1995.
Lewis, Sinclair, and 儀 内野. ドクターアロースミス. 地球人ライブラリー. Vol. 036: 小学館, 1997.

小学館の「地球人ライブラリー」というシリーズがあった。私から見るとよく分からないシリーズである。一時期人気があった学者の栗本慎一郎ダニエル・デフォーのペストを訳しているなど、何が起きるとそんなことになるのかよく分からない本を出している。そのシリーズで、シンクレア・ルイスの『アロースミス』という医学小説の古典が翻訳されていることを知って、これもよく分からないけれども買って読んでみた。原作は長大な20世紀初頭の医学教育と医療を描いたもので、私は部分的にしか読んだことがないが、当時の医学生の生活と価値観、医学教育のありさま、開業医の理念、職業の理念など、読んでおくと非常にためになる作品である。日本語訳はその抄訳である。結構面白い。古本で安価に手に入るから読んでおくといい。

そこで「地球ライブラリー」から『外科の夜明け』という本も出ていることを知った。恥ずかしいことにこの本のことを私は知らなかった。安価だったし、買って読んでみた。基本は、史実にかなり基づいた小説であり、大河ドラマのようなものだと思う。麻酔と消毒と細菌学の時期の外科学の発展を描いた小説である。アメリカ人の外科医を主人公にして、彼が著名な外科医や医者たちに会った時の話をするというストーリーである。色々と面白い引用はあるが、小説だから、史実として軽々しく引用してはいけません(笑)それから、外科技術の重要な細部がわかりにくい。外科技術の進展の話は、技術的な把握が大きな意味がある領域である。技術的な部分をかっちり把握して、できれば実践できる必要があり、外科の医者でなければできない医学史の主題だと私は思っている。私のような人文社会科学系の医学史の研究者は、それが障害になって、外科を主題にした仕事をおそらく一生しないと思う。ただ、この書物では、その部分があまりよく分からない。これは小説だからなのか、オリジナルがそうなのか。立派なきちんと学術的な本を探して読もう。

地球人ライブラリー、よく分からないシリーズだけれども、わりと楽しかったです。復活しなくてもいいとは思いますが。