薬袋紙(やくたいし)についてメモ

薬を包む「薬袋紙」(やくたいし)についてメモ。私が子供のころの50年くらい前には、薬袋紙に粉薬が分包されている光景がかすかに記憶に残っている。読んだ本は池田寿『紙の日本史ー古典と絵巻物が伝える文化遺産』(東京:勉誠出版、2017)

ヨーロッパ・イスラムと日本の医療や治療の違いを考えるとき、いくつかのヒントがある。前者においては体液の操作が治療で重視され、後者では薬が重要であるということである。ヨーロッパではやはり瀉血や下剤が中心となった。一方で、日本では、相対的な強さにおいては、薬が強く、瀉血と下剤が処方される割合は少ないという印象を持っている。もちろん江戸時代の古方は下剤に熱く注目する方法だが、それがどれだけ激しい反論を読んだのか、そして明治以降に西洋医学が中心になってから、日本の漢方医学も古方らしさを強めたことも、<もしかしたら>19世紀のヨーロッパ医学の体液性を語っているのかもしれない。

池田が論じている箇所は短いが、とても面白い。『かげろふ日記』、奈良西大寺から発見された叡尊の筆で五薬五穀と書かれている薬袋紙もある。ここで薬を包む仕方は『香薬包様』だという。17世紀の笑い話の『醒睡笑(せいすいしょう)』にも言及されている。南北朝時代の創作である『福富草紙』においては、薬師は、薬研で磨り、棹秤や分銅で重さをはかったものを、薬袋紙に包んで患者にあげるというシーンが描かれている。江戸時代には、薬袋紙は、富山の薬売りと知られた越中八尾産の紙と土佐特産の紙があった。引っ張っても破れない強さ、厚さにむらがない紙であった。