1920年代ソ連における心理障害の青少年収容施設の研究論文

 
Maria Cristina Galmarini-Kabala, "Psychiatry, Violence, and the Soviet Project of Transformation: A Micro-History of the Perm' Psycho-Neurological School-Sanatorium", Slavic Review 77, no.2 (2018), 307-332.
 
1920年代に設立された心理障害を持つ青少年収容施設の非常に充実した資料をもとにした論文。史料も素晴らしいし、その読み方も素晴らしい。史料に関しては、第二次世界大戦中からはモロトフと呼ばれ、当時と現在はペルミという市の名称を持つ青少年収容施設である。一方では孤児を収容し、1年程度の期間にわたってケアと心理的な治療を与え、もう一方では家庭の要請にこたえて心理的なさまざまな問題を持つ青少年を収容して精神医学者が治療を与える仕組みである。
 
そこに保管されている史料が素晴らしい。子供に関する記述、子供が自分の家族に送った医師に暴力を振るわれているという手紙、家族が送った手紙、行政の対応、そして精神医たちの対応などが、一人ひとりの子供が受けた暴力とそれに関する家族と医学の解釈と対応について実証することができる。また、子供が暴力を受けたというだけでなく、もう青年と呼ぶに値する収容者が精神科医に暴力をふるい露骨な反抗を行った事例も記録されている。これはこの時期に限らないし、ソ連に限らないことだが、一つの事例に関して詳細に多様性を復活させる研究をすると、その中に矛盾するかのような大きく異なった性格の事例が共存するようになっている。
 
このソ連の事例を、ヨーロッパ各国の事例を研究して、大きな枠組みを作った著作を数多く引用して作り上げているあたりも素晴らしい。この論文の脚注は、精神医療の社会史と思想史に関して、非常に豊かな文献一覧になっている。私が持っていないもの、知らないものも結構あって、ことに書物の世界にうまく追いついていない自分の状況を再確認した。本と研究論文をたくさん集めよう! 
 
一方で、当時のソ連では、社会に暴力が存在すること、暴力の対象となる子供が存在することを、どのように解釈するのかという政治的・思想的な問題があった。これらは、ソ連の何がどう問題なのかを論じて、それの解決に向かって政治的に適切な方針を考えなければならない。この部分は、同じ時期の日本の精神医療を分析する意味で、とても参考になる手法だった。20世紀の第二四半世紀(c.1925-c.1945)、日本で言うと昭和戦前期にあたる時期に、異なりを持ちながら現代性が形成された時期である。