日本帝国による1940年代の高砂族の眼科学的調査

1944年から45年にかけて『台湾医学会雑誌』に、4つに分割された論文が刊行。全体としては「高砂族の眼科学的調査」と題され、四つの論文は、サイシアト族、タイヤル族、不明だがおそらくブヌン族アミ族と題されている。不明というのは、1945年の44巻1号に掲載されているのだろうと思う。ブヌン族だろうというのは、アミ族を論じた論文でそう言及されているから。今回は、たまたま現物を静岡市古書店が売っており、吉永先生にお勧めされて買ったという理由で、3つの論文しか見ていない。『台湾医学会雑誌』の該当号は、医学部の図書館がおそらく持っているので、そちらに請求してみます。
 
フィールドワークを行ったのが1942年8月から43年2月まで。投稿は4本分を一括して1944年4月。目標は高砂族の教化と文明化が順調に進み、台湾総督府は絶大に評価され、高砂族への賛辞も高く、その素質も素晴らしいと考えられている。ことに原住地の山岳地帯から平地に近い地域に移住している。ここで文明的な生活に変わるから、原住地での健康や疾病の状態が変わっていく。その状態を記録しておこうという狙いである。基本は、これからの大東亜共栄圏の拡大の中で、熱帯地域の征服と文明化を考えるときのベースを理解しておくという発想である。
 
調査の結果は以下の通り。フィールドワークのためのテント、電灯、検眼鏡の写真も載せます。
 
部族名 調査人数 調査地域 原住/移住 開始日 終了日 視力1.20以上の割合 トラコーマ罹患者の割合
サイシアト族 622名 8部落 原住地 1942/8/25 1942/9/4 79.9% 56.2%
タイヤル族 1143名 6部落 原住地 1942/9/26 1942/10/17 84.9% 76.8%
不明              
アミ族 1040名 4部落 移住地 1943/2/9 1943/2/16 77.1% 82.9%
 

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トラコーマ率が8割で非常に高いということも重要だが、視力に関して、1.2以上の人物が8割を超えているという現象もすごい。現在の日本の視力はとにかく低下し続けているし、小学生のゲームブームを見ると、明るい展開は持っていない。私は35歳くらいまでは2.0くらいをキープして、それを自慢する馬鹿でしたが(笑)、今は悲惨です。うううむ。
 
 
刊行された3つの論文は、以下のようなものである。
 
茂木宣、國友昇、熊野誠毅、邸林淵、寥貴盛、胡キン麟、李徳輝. "高砂族の眼科学的調査 其一「サイシアト族." 台湾医学会雑誌, vol. 43, no. 11, 1944, pp. 718-790.
 
茂木宣、國友昇、熊野誠毅、邸林淵、寥貴盛、胡キン麟、李徳輝. "高砂族の眼科学的調査 其二「タイヤル族." 台湾医学会雑誌, vol. 43, no. 12, 1944, pp. 826-836.
 
不明
 
茂木宣、國友昇、熊野誠毅、邸林淵、寥貴盛、胡キン麟、李徳輝. "高砂族の眼科学的調査 其四「アミ族."  台湾医学会雑誌, vol. 44, no. 2-3, 1945, pp. 71-81.