欲望と『グロテスク』とプリンツホルンの挿絵

グロテスク. "錯覚で描いた狂人の傑作展覧会." グロテスク, vol. 4, no. 1, 1931.

Prinzhorn, Hans. Artistry of the Mentally Ill : A Contribution to the Psychology and Psychopathology of Configuration. [2nd ed] edition, Springer-Verlag, 1995.

『グロテスク』の4巻1号は、その冒頭に「錯覚で描いた狂人の傑作展覧会」と題して、9枚の挿絵がはさまれている。この挿絵はすべてハンス・プリンツホルンの書物の挿絵からとられたものである。もともとの著作はドイツ語で、1922年に刊行された Bildnerei der Geisteskranken. Ein Beitrag zur Psychologie und Psychopatologie der Gestaltung である。CiNii で調べたら、日本の大学には15冊を超えた本が所蔵されている。医学部や文学部である。私が持っているのは英訳だけで、最初は1972年に刊行されて、1995年に再刊されたものである。持っていないが翻訳もされている。

そこに9枚の挿絵がすべて使われている。それぞれの挿絵については、その絵と患者の様子の関係をプリンツホルンが説明しているが、それも訳されて説明となっている。かなりの部分がプリンツホルンの挿絵である。まあ、これを剽窃と言えばもちろんそうなる。私は剽窃学者ではないから、これが理念型かどうかは別にしておく(笑)

面白いのは、1931年の段階で『グロテスク』はプリンツホルンが選んだ挿絵を復刻していることである。モダニズム全体の考え方の影響と言ってよい。もう一つが、まだ確かめていないが、梅原かその周りの人物が書いているだろう、全体へのメッセージである。

「凡ゆる芸術作品には欲が伴う。だが、気違いの作品にはそれがない。欲を離れた錯覚オン・パレード。これこそ、ほんとうの芸術だ」

この欲に関して何かを論じることは、梅原に多いことであるし、「オン・パレード」というのはプリンツホルンがそのまま使っている言葉ではないだろう。1920年代から30年代にかけての欲望の問題を少し憶えておく。

ハイゼルベルク大学にはプリンツホルンのコレクションがある。あまり知られていないが、日本の患者が送ってきたイラストがある。手元で描いたという感じがあるが、どなたか、どこの誰がどのように送ったということがもうわかっているかしら。調べてくださいな。