新国立劇場『ファルスタッフ』

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新国立劇場ヴェルディのオペラ『ファルスタッフ』を観ました。二度目か三度目ですが、いつも通りとても楽しかったです。
 
演出はジョナサン・ミラー。ミラー先生は医学者であると同時に演劇やオペラの演出家でもある。それからもう一つ、若い頃には医学史の研究者だった時期もあった。医学史の研究機関であるロンドン大学のUCLでウェルカム医学史研究所だから、高林先生や私の先輩にあたる。バイナム先生や故ポ―ター先生と同じ組織で、ミラー先生も活発に医学史を研究しており、その時期の研究を反映したものを読んだことがあるが、本格的な研究だった。バイナム先生からお伺いしたのは、ミラー先生はもともとは UCLの生理学研究の最先端におり、それから5年間医学史を勉学して医学史の先端を学んだあと、ふたたび UCLの最先端の生理学に戻ろうとしていたとのこと。ところが、この5年間というブレイクが長すぎて、最先端の生理学に復帰できず、演劇やオペラの演出家になったとのこと。そのことも関係あるのだろうが、短い医学史学習期間のメカニズムが広まっていて、私が在籍した時期には、医学生に一年間の特別期間が与えられ、医学史や生命倫理や医学と文学などを集中して学ぶようになっていた。日本でこのようなメカニズムを作るとしたら、やはり、大学院での1年間の何かという設定になるだろう。
 
このプログラムでミラー先生は、18世紀のイギリス社会史とオペラの話をつなげようとして、E.P. トムソンを引用して、ラフ・ミュージックやシャリヴァリなどヨーロッパ各地におけるミクロな世界の音楽と政治の話をしていた。一度読んだ記憶があるから、再利用かもしれないし、もともとだいぶ前に書かれた文章である。それが当たっているかどうかは別にして、お話としてファルスタッフへの処罰の解釈が面白かった。他にも多くの日本語の音楽研究者や文学研究者たちが、ヴェルディの人生と音楽についての話、ファルスタッフオテロなどの話について書いていて、どれもとても面白かった。