古川柳くすり箱と「検印」

鈴木昶. 古川柳くすり箱. 青蛙房, 1994.
 
鈴木昶の仕事の一つである『古川柳くすり箱』。大学では文系であり、卒業後薬剤師となったユニークな人物だけあって、書かれたものはとても面白い。病気ー医者ー薬種ー風俗と主題を分けて、それぞれを幾つかのジャンルに分け、それをさらにいくつかのサブジャンルに分ける。「病気」は「疾患」と「疫病」に分かれ、「疾患」は「頭痛」「瘧」(おこり)「疝気」(せんき)「癪」(しゃく)などに分かれていく。そこに、江戸時代の医学史や薬学史に関する色々な知識が盛り込まれている。読んで楽しい本である。
 
例えば授業でマラリアと教える「瘧」。発作すると全身に発作が来るので、それが体を押さえるという部分も入っていることを取り上げた川柳がある。「瘧のうえに乗っている母親」(武2)や「瘧をばいけどるように看病し」(明二・松)は、治療としてはた目にはかなり手荒らに映る。発熱の前兆は悪寒。体を押さえつけるのは暖を与える意味もあったのだろう。基本は、瘧の場合、治療することを落とすといい、治ることを落ちると表現する。これは、昔は物の化が憑くと考えたことの証拠である。おそらくそれと連携することも挙げられる。特定の地蔵を縛ると瘧が落ちると信じられていたとか、遊女や禿(かむろ)の瘧は、遣り手がそれを落として働かせることなどをあらわす川柳が示されている。とても面白い。
 
一方で、このような観方では、古代のヒポクラテス以来の、マラリアの中での三日熱と四日熱を区別するような発想とはあまり関係がない。その時間的な枠組みではなくて、どのように落とすかという話になっている。
 

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鈴木昶による1994年の書物の検印
 
300円ほどで買った1994年刊行の古書に「検印」が押してあった。鳥獣戯画の蛙に「昶」とハンコが押されている。1762というのは、一冊ずつ押されている部数なのだろうか。検印を調べたらこのようなサイトがありました。