1900年近辺の思春期少年少女と解剖蝋模型展

F. ヴェデキント (Frank Wedekind, 1864-1918) の出世作が、1891年に刊行された『春の目覚め』という戯曲である。15歳前後のギムナジウムの少年少女が、性と妊娠と社会に直面した時の悲劇を描いた作品である。これは医学史ではなくジェンダー論の授業での課題にしたのだけれども、そこに蝋解剖学の展示についての記述があったのでメモ。
 
主人公のうちの二人を形成するメルヒオールという秀才とモーリッツという凡庸な少年の会話である。「射撃祭のとき、ライリヒ解剖館ていう移動博物館で見たんだ!ばれたら、退学させられただろうなー晴れた日のように美しくって、本物そっくりだった!」という記述である。そこに酒寄進一先生という訳者が注をつけている。フィリップ・ライリヒ (Philipp Leilich) という人物には『人体領域の芸術的表現の最新コレクションであるフィリッピ・ライリヒの人類・解剖博物館案内記』という著作があり、これがドイツのフランクフルト大学図書館に所蔵されているとのこと。それ以外にgoogle してみると、初期映画を見せている映画館として、かなり成功している。マーク・トウェインの『トム・ソーヤー』での記述や、私自身の少年時代の記憶も混ぜていうと(笑)、医学と画像、模型、映像が結びついて一般大衆向けに現れた記述が、思春期の少年少女たちが解剖や性や身体と接する場面である。
 
酒寄先生の解説では、ライリヒと並べて、同時期の19世紀後半にかけて、ヨーロッパで解剖学の蝋模型製作者として著名なピエール・シュピッツナー (Pierre Spitzner) の名前も出していた。この医師は19世紀後半のパリで解剖蝋模型展覧会を展開し、非常な人気が出たため、ヨーロッパを移動する展覧会になった。それに言及している。シュピッツナーSleeping Venus や 結合双生児と呼ばれた身体の一部が結合している双子の模型で、google で探すと、どぎつい画像が数多くあるし、作成者自身が大衆娯楽を作っているという印象も持つ。石原先生は、取り組むことがかなりの難しさを持っているこのような話を回避したのかもしれないと思う。
 

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フィリップ・ライリッヒの初期映画館

スピッツァーについては、研究者であるアイリーン・ブラウン先生のサイトに詳しい説明がある。

 

Grand Musee Spitzner | Irene Brown