スネイク・オイルの偽薬

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薬のリサーチ。もちろん本や史料を読む。史料の中でも本草学の史料、ヨーロッパだと materia medica や herbal と呼ばれている史料は、薬の歴史を本気でリサーチしている医学史研究者にとっては最も大切なものだが、私から見ると、まだ壁があるというか、読めない史料である。
 
実物の薬を調べる機会があればいいのだけれども、これに慣れるのには時間がかかる。それだけに集中しても1年はかかるだろう。私が手元に持っている実物の薬は、研究資料というより本棚に飾るインテリアとしての機能のほうが高い(笑)その中で、Jeremy Greene 先生に頂いた Snake Oil を少し眺めてみた。この薬自体はつい最近生産されたものであるが、歴史の話題になったのは19世紀から20世紀初頭である。
 
これはもともとは中国の伝統医学で用いられていた、ヘビの油である。英語では water snake in China、日本には住んでいない蛇で、シナミズヘビという。19世紀に中国人の大規模な移民があり、20万人ほどの中国人がアメリカに移住した。その過程で中国の薬が持っていかれた。その中でスネイク・オイルは痛み止めなどに有効で、アメリカに住む人々の間に人気も出た。
 
それを見世物と偽薬の一体化に用いたのが、Clark Stanley という芸人である。19世紀の末から20世紀の初頭に Snake Oil を売りまくった。1893年のシカゴの万国博覧会でも特別な展示を出した。彼自身は「医者」であると自称し、 The Rattlesnake King と名乗り、舞台の上で生きた蛇を殺して大きなホピ族の医療者から学んだというでたらめを掲げ、観衆の中には偽の客を座らせて、この薬は効くぞと叫ばせたりすることをやらせた。この見世物がアメリカの一般人には効果を上げて、インディアンのようにヘビの油を入れていると称している薬がかなり人気が出たという。
 
しかし、20世紀になって、スタンリーが調べられると、基本的にすべてのでたらめが明らかになった。それとともに、snake oil という言葉も、侮蔑的・批判的な意味を持って使われるようになった。オバマも敵を批判するのに 相手は snake oil だと用いたし、若いブッシュはお前は snake oil だと用いられたという(笑)
 
この薬の「利用期限」。May は読めるけれども、その先を読むことができないようになっている。さすがだましのプロですね(笑)

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スネイク・オイルです!