藤原新也『東京漂流』より「リカちゃん納経」

私の愛読書の一つである藤原新也『東京漂流』。文庫本の冒頭は「リカちゃん納経」という作品である。おそらく、宮崎勤の殺人事件で開始した平成元年に、銀座の博品館の「リカちゃんコーナー」に行って、宮崎の世界とリカちゃんの世界を対置する構図である。そこに、当時のインドの死、あるいは世界各地の死体の現実が挟み込まれ、インドから宮崎勤事件とリカちゃんの双方を見るという非常に独創的な形になっている。

インドやメキシコと較べれば、日本の死体はもっともよく管理され、敏速な儀式のうちにこの世から消し去ってしまう。それは、リカちゃんファミリーには死というものが存在せず、反世界は完璧に追放されているのと同じである。

「死のみならず反世界は誰の目にもふれぬよう隠蔽され管理されている」

そのような世界が平成の初めであり、そこから30年経って、日本は変化してきている。