歌舞伎におけるコレラと狂気とエレキテル

松竹の歌舞伎座友の会の機関誌『ほうおう』の2019年12月号。面白いことに、医学史や科学史に直接かかわる主題が三つもある贅沢な月である。ひとつはコレラが登場するとのこと。大佛次郎の『たぬき』という作品で、初演は1953年とのこと。江戸のコレラが主題で、おそらく1858年の大流行である。コレラの悲劇と家族のテンションが重なる作品であるのだろう。原作は著作集にあるので読むことにした。次は江戸時代の狂気の舞踊。タイトルは「保名」(やすな)という清元舞踊の作品で、初演は1818年であるとのこと。これが1929年に六世菊五郎によって新演出で上演され、非常に人気が出て、現在でも上演されるとのこと。この作品は、男性である保名が、恋人の榊の前という女性が自害したため、発狂してしまう。その発狂の中で、恋人の形見の小袖を肩にかえて、桜と菜の花が咲き乱れる春の野辺で踊るというシーンである。玉三郎が踊るということで、男女を確認しました。この保名は実は天門博士の秘書をしているという設定である。この発狂の場面のあと、精神疾患は治り、白狐との異類婚姻譚があるという面白い話である。

天文博士と関係があるが、もう一つは科学史ネタである。『神霊矢口渡』という作品も上演される。この作品の初上演は1770年で、書いたのは福内鬼外というふざけた筆名の人物であるが、これは博物学者でエレキテルを作った平賀源内であるとのこと。この作品にも「琥珀の塵や磁石の針」という詞章があるとのこと。

時間があれば行きたいのですが、12月はちょっと忙しく、『保名』をビデオを見るだけになってしまうかもしれません。