症例誌に患者の感情が書き込まれること

精神病院のアーカイブにはさまざまな文書が残されている。かなり規模が大きい私立病院であったこと、医師、看護人、薬剤師、その他の仕事をする人が100人を軽く超えていると、人材管理の書類も必要なこと、代用などで東京府との交渉があったこと。このような公式の書類、ビジネスの書類が必要である。

それと並行して、精神病院の症例誌には患者個人の事情、家庭の中の葛藤、社会が患者を取り囲んだ状況などが書かれている。これまで「そういうものだ」と考えていた部分もあったが、「なぜそこにそのようなことが書かれるのか」をまじめに考えることも必要である。

この話しを広い文化の中に位置付けるとどうなるか。精神病院の脈絡を離れると、手紙や日記の形で個人の心情や悩みなどを書き、それらが他人に見せることを念頭に置いた文章を作ることは、ヨーロッパでも日本でも長い歴史を持ち、ヨーロッパでは中世に「書簡集」が成立する。The Letters of Saint Anselm of Cantabiry (1990) によると、個人的な手紙ですら、公開と筆写を前提に書かれているとのこと。