「院内感染」の nosocomial

いま病院の歴史という事典の事項を書いている。Guenter Risse の700ページの傑作があり、どの話題を取ってどこを外すかを迷いながら書いている。たまたまその過程で、医療英会話の「院内」の項目を引き、そこに nosocomial という単語に出会った。ちょっと面白い単語なので調べてメモ。
 
この単語自体が英語に現れたのは19世紀だが、もともとは古代ギリシア語の「疾病」をあらわす noson と、人の世話をするという意味の komein を合わせたものである。そのタイミングは紀元後4世紀で、ヘレニズムのギリシア語、ビザンチンギリシア語、そしてラテン語に nosokomein にあたる単語が現れる。それからルネサンスのこの単語が再発見され、16世紀フランスのラブレーが nosocome という語を用いて、17世紀イングランドではその語が英語として使われている。
 
意味は「疾病にかかった人たちがケアされる場所」と考えることが一番いい。紀元後4世紀にはそのような意味で用いられたし、16世紀にラブレーが使ったのは、戦争で負傷した兵士が療養する場所の意味である。
 
ところが19世紀になると「ホスピタル」の意味になるだけでなく、次に現れる単語は fever, infection, epidemic などになり、「院内感染」「院内流行」の意味で使われることが多くなる。