Entries from 2006-01-01 to 1 year

塩の文明批評

だいぶ前に読んだ塩の文明批評を読み返す。文献は Pierre Laszlo, Salt: Grain of Life (New York: HaperCollins, 2002) 翻訳も出ている。 著者はフランスの化学者。塩は交易されて、海や山や沙漠を越えて人々を結びつける媒体であった。調理にしろ食料の保…

コレラとベルツと狐憑き

ベルツの論文集を読む。文献は、エルヴィン・ベルツ『ベルツ日本文化論集』若林操子編訳、山口静一・及川茂、池上純一、池上弘子訳(東京:東海大学出版会、2001)『ベルツの日記』で有名な東大医学部の教授のエルヴィン・ベルツは、東大医学部初期の歴代の…

南アフリカの結核

19世紀末から20世紀前半にかけての南アフリカの結核の歴史疫学の論文を読む。しばらく前にマラリアの論文を紹介したパッカード。文献は、Packard, Randall M., “Industrializatio, Rural Poverty, and Tuberculosis in South Africa, 1850-1950”, in Steven …

ホフマンスタール『チャンドス卿の手紙』

出来の悪い連想ゲームのようで申し訳ないが、昨日のエントリーでチャンドス卿が出てきた(JNさんもヘンデルに絡めて書いていた)ときに、ホフマンスタールの「手紙」(邦題は「チャンドス卿の手紙」)の架空の著者であるチャンドス卿と関係があるのかしら…

人痘とイギリス海洋通商帝国

1720年代のイギリスの海外貿易の文脈に人痘を位置づけた論文を読む。文献はStewart, Larry, “The Edge of Utility: Slaves and Smallpox in the Early Eighteenth Century”, Medical History, 29(1985), 54-70. 1720年、マルセイユでペストが流行し、イギリ…

診断と患者の物語

新着雑誌から「患者による物語」の位置づけに関する鳥瞰的な論文を読む。文献はGillis, Jonathan, “The History of the Patient History since 1850”, Bulletin of the History of Medicine, 80(2006), 490-512. この30年の新しい医学史のコアな問題の一つは…

外科医の分布と梅毒の身体論

必要があって、昔読んだ論文を読み返す。Pelling, Margaret, “Appearance and Reality: Barber-Surgeons, the Body and Disease”, in A.L. Beier and Roger Finlay eds., London 1500-1700: The Making of the Metropolis (London: Longman, 1986). この20年…

実験室とフィールド

昨日のJNさんのレポートで、「実験室の医学」と「フィールドの医学」という概念が使われていた。最近流行の概念である。その概念を使って、ブラジルの黄熱病コントロールを素材にして「実験室」と「フィールド」の二つのパラダイムの違いと重なりを記述し…

『精神医学 死を生み出す産業』

精神科医の犯罪を告発するkebichan さんたちが作成に関与されたDVDの一部を見る。市民の人権擁護の会提供の『精神医学 死を生み出している産業』。 豊富な資料を惜しげもなく使い、それに高度な処理を施した映像にまず驚く。効果的なナレーションと字幕。<…

熱帯医学のパラダイム

マンソン以前の熱帯医学についての論文集を読む。文献は Arnold, David ed., Warm Climates and Western Medicine: The Emergence of Tropical medicine, 1500-1900 (Amsterdam: Rodopi, 1996). アーノルドが編集した本書には、ウォボーイズ、ハリソン、カー…

人種概念の政治思想史

人種概念の政治思想史の大著に目を通す。文献はHannaford, Ivan, Race: The History of an Idea in the West, foreword by Bernard Crick (Baltimore: The Johns Hopkins University Press, 1996). ブルーメンバッハとかワイスマンとか、生物学的な人種理論…

ペスト対策とアパルトヘイトの起源

南アフリカにおけるペストの隔離政策とアパルトヘイトの密接な関係を論じた論文を読む。文献はSwanson, Maynard W., “The Sanitation Syndrome: Bubonic Plague an durban native Policy in the Cape Colony”, Journal of African History, 18(1977), 287-41…

黒死病の歴史・完全版

ヨーロッパ全体の黒死病の歴史について、自ら「完全版」と名乗る書物の一部を読む。文献はBenedictow, Ole J., The Black Death 1346-1353: The Complete History (Woodbridge: Boydell Press, 2004). 一撃でヨーロッパの人口の1/3を斃したと言われる14世紀…

マキョウンのテーゼ・エンドゲーム編

マキョウンのテーゼのエンドゲームが続いている。10年前の論文だが、マキョゥンの棺桶に釘を叩き込んで錠前を掛けた(笑)論文を読む。文献はJohansson, S. Ryan, “Food for Thought: Rhetoric and Reality in Modern Mortality History”, Historical Method…

13世紀の世界の周辺に住む怪物

先日の hitomidon さんのコメントでのプリニウスの話が気になって、ちょっと調べた面白い図版の紹介。プリニウスが書いている南方の地に住む「巨大な**をもつ人間」の話。何が大きいんだろう?伏字を使って人の好奇心をそそる天才の hitomidon さんの手練…

雲南の生態環境史とペスト、それから人面瘡

しばらく前にいただいた書物を読む。文献は上田信『東ユーラシアの生態環境史』(東京:山川書店、2006) 雲南西北部のチベット族の住まいに行くと供される「バター茶」の味覚からはじまって、雲南を中心にして異なった生態環境の間で交易される商品(茶、塩…

現代生命科学の思想

出張の飛行機の中で、現代の生命科学の思想史を読む。文献は Evelyn Fox Keller, Refiguring Life: Metaphors of Twentieth-Century Biology (New York: Comumbia University Press, 1995) 現代の生命科学思想は、医学史の周辺の中でも、私が特別弱い分野で…

発疹チフスの文明史

必要があって、疾病の歴史の古典、ジンサーの『ネズミ・シラミ・文明-伝染病の歴史的伝記』(東京:みすず書房、1966)を読み返す。「読み返す」といっても、だいぶ前に読んだときにはこの手の問題に興味がなかったせいか、まったく内容が掴めておらず、新…

東京の下層社会

出張から帰る飛行機の中で紀田順一郎『東京の下層社会』(東京:ちくま学芸文庫、2000)を読む。明治から昭和戦前期の東京を中心に、貧者弱者の悲惨な生活に光を当てたルポルタージュを広く渉猟し、達者にまとめた読みやすい書物。東京のスラム街の生活、陸…

アフリカの疾病と医療

アフリカの疾病史・医療史についての論文を読む。文献はPrins, Gwyn, “But What Was the Disease?: The Present State of Health and Healing in African Studies”, Past and Present, No.124(1989), 159-179. 未読山の中から抜き出しただけで、著者について…

ナイチンゲール『看護覚書』

必要があってナイチンゲール『看護覚書』を読みなおす。文献はNightingale, Florence, Notes on Nursing: What it is, and what it is not, with a foreward by Virginia M. Dunbar (New York: Dover Publications, 1969). 門外漢にとってナイチンゲールほど…

18世紀フランスの産婆教授

18世紀フランスの産婆、マダム・デュ・クードレ(Madame du Coudray) の伝記を読む。文献はGelbart, Nina Rattner, The King’s Midwife: A History and Mystery of Madame du Coudray (Berkeley: University of California Press, 1998). 産婆(midwife)の歴史…

結核菌とレッセ・フェール

スウェーデンのイエテボリとイギリスのバーミンガムにおける結核対策の違いを分析した論文を読む。文献はNiemi, Marjaanna, “The ‘Disappearance of Environmental Problems: The Re-Focusing of Public Health Policies in British and Swedish Cities, 189…

精神病は実在するか?

トマス・ザズ以来の古典的な問題である「精神病は実在するか?」を論じた書物を読む。文献は Pickering, Niel, The Metaphor of Mental Illness (Oxford: Oxford University Press, 2006) トマス・ザズ(Thomas Szasz)はニューヨークのシラキューズ大学の精神…

『未来のイヴ』

ずっと前に買った本を出張中のホテルで読む。ヴィリエ・ド・リラダン『未来のイヴ』齋藤磯雄訳(東京:東京創元社、1996)。 かなり前のことになるけど hitomidonさんがブログで取り上げられていた作品。 ストーリーは比較的な簡単。ある若いイギリス貴族が…

「待ち」の医学と「ずぶの素人」

「確かこの本にこういうことが書いてあった」というおぼろげな記憶をたぐって本を開いてみて、それが見つかると嬉しい。探していたことだけでなく、意外なことが書いているともっと嬉しい。文献はアーサー・ヤング『フランス紀行 1787, 1788, 1789』宮崎洋訳…

メチニコフの『近代医学の建設者』

同じ出張中の飛行機の中で、メチニコフの医学史小品を読む。『近代医学の建設者』宮村定男訳(岩波文庫、1968) 第一次世界大戦中の戦時体制で、若い研究者は動員され、実験動物の飼育施設は食糧増産に振り向けられたので、パリのパストゥール研究所は開店休…

ヴァシリィ・グロスマンの「犬」

出張の飛行機の中でロシア人作家の短編の英訳を読む。 Vasily Grossman の “The Dog”. Prospect という雑誌の2006年9月号に掲載されている。 Prospect という、時事問題を中心に質が高い評論を載せているイギリスの総合誌を購読している。同じジャンルの雑誌…

アルフォンス・ドーデと痛み

この傑作を知らずに医学史研究者を名乗ってきたことを恥じるようなテキストをしばらく前に読んだ。先日、人と話しているときにこの本の話が出たので、紹介する。文献はDaudet, Alphonse, In the Land of Pain, edited and translated by Julian Barnes (Lond…

パリンプセストとしての都市空間とペスト

初期近代のヨーロッパのペストの記憶を論じた論文を読む。文献はCarmichael, Ann G., “The Last Past Plague: The Uses of Memory in Renaissance Epidemics”, Journal of the History of Medicine and Allied Sciences, 53(1998), 132-160. アン・カーマイ…