Entries from 2008-01-01 to 1 month

輸血の歴史

未読山の中から、19世紀の輸血の歴史を読む。文献は、Pelis, Kim, “Blood Standards and Failed Fluids: Clinic, Lab, and Transfusion Solutions in London, 1868-1916”, History of Science, 39(2001), 185-213.19世紀の前半のイギリスでは、輸血という操…

アンリ・ミショーのメスカリン III

今日は無駄話を。2007年の国立美術館のミショー展を逃したのが残念で、アマゾンの古書で、展覧会のカタログの新品同様なのを買う。カタログといっても、A5版の普通の本のサイズで、画集と詩集を兼ねたようなとてもきれいな本。現代絵画の解説には、愛好者の…

アンリ・ミショーのメスカリンII

昨日に続いてミショーの話し。彼がメスカリンを服用した時の実験を記した記述「みじめな奇跡」を読む。小海永二個人全訳の全集が青土社から出ていて、その第三巻に収録されている。手元に置かなければならないテキストだと思って、英訳を注文した。英訳は、…

アンリ・ミショーのメスカリンI

ハクスリー、ベンヤミンを読んだついでに、ハクスリーとならぶもう一人のメスカリン実験の巨人でフランスの詩人・画家のアンリ・ミショーを調べる。まず伝記に目を通す。文献は小海永二『アンリ・ミショー評伝』(東京:国文社、1998)ハクスリーがメスカリ…

気候の時代

必要があって、気候と人間の進化を論じた書物を読む。文献はグリフィス・テイラー『人種地理学―環境と人種』徳重英助訳(東京:古今書院、1931)同書は1926年に英語で出版された書物のいちはやい翻訳。和辻哲郎の『風土』が1935年に刊行され、生理学者の久野…

白人オーストラリア主義の成立

熱帯オーストラリアへの植民をめぐる医学言説の分析を読む。文献はAnderson, War-wick, The Cultivation of Whiteness: Science, Health, and Racial Destiny in Australia (Durham: Duke University Press, 2006). 著者はこの領域の第一人者で、分析は読み…

ベンヤミンのハシシ服用のプロトコル

ハクスリーのメスカリンが面白かったので、未読山の中にあったベンヤミンのハシシ実験記録を読む。文献は、Benjamin, Walter, On Hashish, introduction by Marcus Boon, ed. by Howard Eiland (Cambridge, Mass.: The Belknap Press of Harvard University …

観相学とヨーロッパ近代の「ジプシー」

観相学のついでに、未読山にあったPorter, Martin, Windows of the Soul: the Art of Physiognomy in European Culture 1470-1780 (Oxford: Oxford University Press, 2003)を引っ張り出してジプシーについての章を読む。ルネッサンス期の文芸復興運動の中で…

アリストテレス『観相学』

プリニウスを読むついでにアリストテレスの全集を眺めていたら、偽書とされる『観相学』も収録されていて、そこに短いけれども面白い記述があった。プリニウスはテキストを持っていないけれどもアリストテレスはわりといいテキストを持っていて(笑)、プリ…

澁澤龍彦『私のプリニウス』

プリニウスを読んだついでに「文庫のS」をごそごそと探して澁澤のプリニウス紹介を少し読んでみた。もともとは雑誌の連載で、プリニウスの博物誌のあちこちから面白い箇所を抜き書きして、それを素材にして談論風発的に思いつくままを書いたエッセイ。原稿の…

プリニウス『博物誌』

必要があってプリニウス『博物誌』の第七巻「人間について」などを読む。澁澤龍彦がプリニウスを全巻読破しようなどというだいそれた野心は持っていないというような意味のことを書いていたが、私は全巻のテキストすら持っていなくて、ペンギン版の抄訳で済…

ハクスリーのメスカリン

必要があって、オルダス・ハクスリーのメスカリン礼賛を読む。文献は、オルダス・ハクスリー『知覚の扉』河村錠一郎訳(東京:平凡社ライブラリー、1995)メスカリンという薬物があって、もともとはペヨーテというサボテンの一種などから抽出されてアメリカ…

『中島敦 父から子への南洋だより』

必要があって、中島敦が南洋から家族に出した書簡集を読む。文献は、中島敦『中島敦 父から子への南洋だより』川村湊編(東京:集英社、2002).中島敦は1941年に喘息の転地療法のために南洋庁のパラオに職を得て赴任する。当地で彼の喘息はむしろ悪化し、一…

『ハドリアヌス帝の回想』

必要があって、マルグリット・ユルスナール『ハドリアヌス帝の回想』を読む。多田智満子の名訳が白水社の「ユルスナール・セレクション」から出ている。同じ著者の『黒の過程』は、初期近代の医科学者を主人公にしている小説だから読んだことがあって、自分…

パリンプセストとしての気候

1928年の疫学の書物を読んでいたら、気候と進化の面白い洞察があった。文献はGill, Clifford Allchin, The Genesis of Epidemics and the Natural History of Disease (London: Bailliere, Tindall and Cox, 1928). 疫学epidemiologyという学問は、1920年代…

『愛人(ラマン)』

マルグリット・デュラスの『愛人(ラマン)』を読む。河出文庫の清水徹訳。仕事で必要な部分だけあさって読むはずが、思わず引き込まれて熱心に読んでしまう。清水の文庫版解説は出色で、すごく得した気分になった。マルグリット・デュラス(筆名)は、1914…

フィリピンにおけるアメリカの植民地医学

フィリピンのアメリカ植民地医学を論じた書物を読む。Anderson, Warwick, Colo-nial Pathologies: American Tropical Medicne, Race and Hygience in the Philippines (Durham: Duke University Press, 2006). アンダーソンは植民地医学史の論客の一人。「白…

公衆衛生の歴史・不思議な名著

必要があって、公衆衛生の歴史を通史的に総覧した研究書を読み直す。文献は、 Porter, Dorothy, Health, Civilization and the State: a History of Public Health from Ancient to Modern Times (London: Routledge, 1999).ちょっと無駄話を。この本は不思…

『レッド・ドラゴン』

必要があって、ハンニバルものの第一作、『レッド・ドラゴン』を読む。『ハンニバル』と合わせて、異常心理の殺人鬼を描いたサイコ・ホラーを一日中読んでいたから、気分が重苦しく、胸が悪くなった。熱い風呂に入って、ゆっくり音楽でも聴こう。ブレイクの…

『ハンニバル』

必要があって、トム・ハリスの『ハンニバル』を読む。『羊たちの沈黙』で描かれた、人肉食の天才精神科医ハンニバル・レクター博士とFBIの美人捜査官クラリス・スターリングの物語の結末がつけられる小説。大アクションが展開されて、陰謀と殺害計画の規模も…

ホッテントット・ヴィーナス

19世紀のロンドンとパリで「ホッテントット・ヴィーナス」として見世物になった南アフリカのコイコイ人の女性、サールタイ・バートマン(と読むのかしら?)の研究を読む。文献は、Holmes, Rachel, The Hottentot Venus: the Life and Death of Saartjie Baa…

空気の公衆衛生の倫理学

空気の公衆衛生の歴史的倫理学とでも呼べる内容の本を読む。文献は、Kessel, Anthony, Air, the Environment and Public Health (Cambridge: Cambridge University Press, 2006).英語圏でダイナミックに進展している環境論・環境倫理の長所と短所をよく現す…

ディーテイルズNo.12 正解者二名!

ディーテイルズ No.12 たぶん、これまでの中で一番難しいクイズだったのですが、さすが、さすが、正解者が二名! 先着順で、にけさんと、常連のきいちごさんです! にけさんのサイトはこちらですhttp://blogs.yahoo.co.jp/ariennike有名な絵に後世の画家が加…

ヴィクトリア期の医者の文学論

昨日ノルダウを読んでいて、ふと気になったテキストがあったので、19世紀の半ばごろのイギリスの医者による文学論の箇所を読み直す。文献は Brodie, Benjamin, Mind and Matter: or Psychological Inquiries (New York: William Wood & Co., 1873).ベンジャ…

ノルダウ『変質論』

必要があって、マックス・ノルダウの『変質論』の英訳を読む。文献は、Nordau, Max, Degeneration, introduction by George L. Mosse (Lincoln: University of Nebraska Press, 1993).医者、文人でジャーナリストで、反ユダヤ主義と戦うシオニズムのリーダー…

『明治のおもかげ』

必要があって、鶯亭金升『明治のおもかげ』(東京:岩波文庫、2000)を読む。私が全く知らない話題ばかりで、楽しく読む。江戸の雰囲気が残る明治の東京の市井の人々の姿を洒脱に描いた随筆集。落語、芝居、謡などの江戸時代以来の芸人や昔ながらの職人など…

軍事作戦と疾病情報

アメリカ軍が第二次大戦とその後の占領政策のために収集した疾病情報をまとめた書物を読む。文献は、Simmons, James Stevens, et.al., Global Epidemiology: a Geography of Disease and Sanitation (Philadelphia: J.B. Lippincott Company, 1944).20世紀に…

『さかしま』

必要があってユイスマンス『さかしま』を読む。澁澤龍彦の名訳の河出文庫。神経症の主人公、デ・ゼッサントが自らを俗世間から切り離して作り上げた部屋で、自然・普通の生活を徹底的に拒んで、不自然でエキセントリックな人工楽園に閉じこもって甘美な拷問…

『エイズとその隠喩』

必要があって、スーザン・ソンタグ『エイズとその隠喩』を読む。 富山太佳夫訳でみすず書房から『隠喩としての病い』と合冊で出ている。アメリカの批評家のスーザン・ソンタグが、乳がんの手術を受けた1978年に書いた『隠喩としての病』は、病気という現象が…

国際衛生会議

国際衛生会議の基本的な研究を読む。文献はHoward-Jones, Norman, “The Sci-entific Background of the International Santiary Conferences, 1851-1938”, Part 1-6, WHO Chronicle, 28(1974), 159-171, 229-247, 369-384, 414-426, 455-470, 495-508.1851年…