Entries from 2008-02-01 to 1 month

「熱帯労働者」というカテゴリー

「熱帯出身労働者」という医学カテゴリーの創出についての論文を読む。文献はPackard, Randall M., “The Invention of the ‘Tropical Worker’: Medical Research and the Quest for Central African Labour on the South African Gold Mines, 1903-36”, The …

近代中国の人種理論

必要があって、近代中国の医学における人種理論の歴史の概論を読む。文献は、Dikoetter, Frank, “The Discourse of Race and the Medicalization of Public and Private Space in Modern China”, History of Science, 29(1991), 411-420.筆者は近代中国の性…

リスク論と未開社会と現代社会

必要があって、文化人類学者のダグラスがウィルダヴスキーという政治学者と共著で書いたリスク論を読む。文献は、Douglas, Mary and Aaron Waldavsky, Risk and Culture: an Essay on the Selection of Technological and Environmental Dangers (Berkeley: …

ガンジーの健康哲学

未読山の中にあったガンジーの健康哲学についての論文を読む。文献は、Alter, Joseph, “Ghandi’s Body, Gandhi’s Truth: Nonviolence and the Biomoral Imperative of Public Health”, Journal of Asian Studies, 55(1996), 301-322. 仕事の性質上いろいろな…

明治の日本家族の病理性

門脇真枝「狐憑証研究の一節」『国家医学会雑誌』No.188(1902), 620-627. のなかに、日本家族の病理性について当時の医者が明確に意識していることを示す箇所があった。110件ほどの狐憑きの症例を研究した調査の統計。男女差もあまり変わらないし、年齢構成…

「魔法の時代」

少し前のことになるけど、ロンドンへの出張の空いた時間に、ヴィクトリアから電車に乗って10分くらいの郊外にある落ち着いた美術館の特別展示を見てきた。The Age of Enchantment というタイトルで、ダリッチ・ピクチャー・ギャラリーで開催された、版画や子…

カレル・チャペック『ロボット』

必要があってチャペックの『ロボット』を読む。千野栄一訳の岩波文庫。恥ずかしい話だが、実際にこの本を読むのは初めて。 1920年に発表された戯曲。「ロッスムのユニバーサル・ロボット」なるロボット製造を独占している会社の工場の社長邸が舞台。ユニバー…

『家庭の医学』とガンの介護文学

知人に薦められてレベッカ・ブラウン『家庭の医学』を読む。アメリカ文学者の柴田元幸が、おそらく原作の雰囲気を良く伝えている文体で翻訳している書物が朝日文庫から出ている。『家庭の医学』という題名で、体裁は「貧血」「化学療法」「幻覚」などの医学…

『悲しき熱帯』

インスピレーションが欲しくて、レヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』を読む。川田順三訳の中公クラシックスで上下二巻本。 今日も無駄話。 恥ずかしい話だけどレヴィ=ストロースの構造人類学というものを理解したことがない。あれはやはり先生に習わなくて…

ラム・ドゥードゥル登頂紀

今日は無駄話を。戦後イギリスのユーモア小説を読む。文献は、W.W. Bowman, The Ascent of Rum Doodle (London: Pimlico, 2001).ヒマラヤの世界最高峰の登頂に挑んだイギリス人の男たち7人のチームの奮闘を描いたユーモア小説。1956年に出版されて、出版最初…

チベットの死者の書

必要があって『チベットの死者の書』を読む。ちくま学芸文庫から出ている川崎信定訳で、優れた解説が付されアカデミックな註もたくさんついているうえに日本語としてもとても読みやすい書物。1000円の文庫本で、学問の蘊奥が詰まった最高水準の原典訳を読め…

エジプトの『死者の書』・・・ではなかった(笑)

必要があって、エジプトの『死者の書』を読もうとする。必要なのはむしろ20世紀初頭のヨーロッパのインテリが読んだテキストなので、ウオリス・バッジ編集・訳のものを買った。もしかしたら翻訳がないかと思ってアマゾンを探したら、このテキストの翻訳と称…

解剖学とウルビノのヴィーナス

新着雑誌から、19世紀後半のイギリスにおける解剖模型博物館のポルノ化を論じた論文を読む。文献は、Bates, A.W., “‘Indecent and Demoralizing Representations’: Public Anatomy Museums in Mid-Victorian England”, Medical History, 52(2008), 1-22. 広…

善存(Well-Being )の社会科学

善存(Well-Being)の概念を多角的に論じた論文集に目を通す。文献は、Haworth, John and Graham Hart eds, Well-Being: Individual, Community and Social Perspectives (Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007)。 5年くらい前から、イギリスやアメリカの…

坂部恵・和辻哲郎論

必要があって、和辻哲郎論を読む。文献は、坂部恵『和辻哲郎 異文化共生の形』(東京:岩波書店、2000)坂部恵は、あまり著作の数が多くなく、直観的にすっと入ってくるエレガントな表現で深い内容を語ってくれる哲学の先生として人気があった。何よりも、著…

人種の科学の衰退

必要があって人種の科学史の古典的な研究書を読む。文献はStepan, Nancy, The Idea of Race in Science: Great Britain 1800-1960 (London: Macmillan, 1982)イギリスの人種の科学者たちの理論・概念のシャープな分析で、必読文献の一つ。今回読んだ20世紀の…

イギリス公立精神病院の社会史

必要があって、イギリスのデヴォンの精神病院の社会史を読む。文献はJoseph Melling and Bill Forsythe, The Politics of Madness: the State, Insanity, and Society in England, 1845-1914 (London: Routledge, 2006).これまでに書かれた精神医療の地方史…

バーミンガム大学病理標本コレクション

もう一回バーミンガムの話題を。バーミンガム大学には近現代の医学教育の歴史を研究している優れた医学史家がいて、大学医学部が所蔵する過去の教育・研究用のマテリアルをよく知っている。その中に、昔の医学部なら必ず持っていてよく使った病理標本(今の…

バーミンガム大学付属バーバー美術館

バーミンガム大学は大学の構内に立派なギャラリーを持っている。オールド・マスターからのすばらしいコレクションで、バーミンガムの富裕な市民が20世紀の初頭にこのコレクションを寄付すると大学に申し出たときには、できて間もない大学はこの立派な寄付に…

バーミンガム市立美術館

バーミンガムに出張して、時間が2時間ほど空いたので、市立美術館に行く。地方都市の美術館ではあるけれども、そこはやはり150年前の世界の産業の中心で、シヴィック・プライドの全盛期を象徴する都市の市立美術館だから、みごたえがある作品がたくさんあっ…

折口信夫『身毒丸』

出張の移動時間中に折口信夫の「身毒丸」を読む。中公文庫で、『死者の書』と一緒に収められている。能楽師の身毒丸は美しい。「細面に、女のやうな柔らかな眉の、口は少し大きいが赤い唇から溢れる歯は貝殻のよう」である。しかし、その身体には、代々の業…

産褥精神病の力学

19世紀アメリカの産褥精神病 (puerperal insanity)を素材にして、複数の教科書的な方法論を教科書的に洗練された仕方で組み合わせて論じた、まるで大学院用の教材のために書いたような論文を読む。文献は、アメリカのTheriot, Nancy M., “Diagnosing Unnatur…

知識のネットワーク

科学革命期の知識のネットワーク論を読む。文献は、Lux, David and Harold J. Cook, “Closed Circles or Open Networks?: Communicating at a Distance dduring the Scientific Revolution”, History of Science, 36(1998), 179-212.ある科学的な言明が真理…

衛生改革の歴史の書き方

19世紀イギリスの衛生改革の歴史を読む。20年近く前の論文だけど、著者の深い思索と鋭い分析はファンが多く、この論文も色々なことを考えさせられる傑作だと思う。文献は、Hamlin, Christopher, “Muddling in Bumbledom: on the Enormity of Large Sanitary …

スペインの乳幼児死亡率

未読山の中からスペインの乳幼児死亡率の長期統計についての論文を読む。文献は、Fariñas, Diego and Alberto Sanz Gimeno, “Childhood Mortality in Central Spain, 1790-1960: Changes in the Course of Demographic Modernization”, Continuity and Chang…

ロンドンの女子医学生

未読山の中から、第一次大戦とその後のロンドンの医学校の女子医学生についての論文を読む。腹を抱えて笑いながら読んだ。Garner, James Stuart, “The Great Ex-periment: the Admission of Women Students to St. Mary’s Hospital Medical School, 1916-192…

日中戦争と防疫

頂いた論文を読む。文献は、末永恵子「日中戦争期の国際連盟による対中防疫支援と日本」『15年戦争と日本の医学医療研究会会誌』8(2007), 41-47.1937年に、盧溝橋事件以降の中国における日本の軍事行動についての中国側の訴えを受けた国際連盟は、日本を非難…

公衆衛生の目標の範囲

必要があって、「公衆衛生」はどこまでその目標を広げるべきだろうかという論文を読む。Gostin, Lawrence O., Jo Ivey Boufford and Rose Marie Martinez, “The Future of the Public’s Health: Vision, Values and Strategies”, Health Affairs, 23(2004), …

島崎藤村『夜明け前』

必要があって島崎藤村『夜明け前』の最終章を読む。主人公の青山半蔵が発狂して座敷牢に閉じ込められ、現実との接触を失って死んでいく過程が描かれる部分である。『夜明け前』は有名だけど、今はあまり読まれていない小説らしい。読んだことがある人は手を…