Entries from 2008-07-01 to 1 month

ヴィルヘルム・ハマーショイ

今日は無駄話を少し。休暇先でイギリスの雑誌を読んでいたら、ヴィルヘルム・ハマーショイ (Vilhelm Hammershoi, o は o に斜線 / がはいった、空集合の記号のようなもの)というデンマークの画家の特集があった。私はもちろん名前も聞いたことがない画家で、…

『20世紀精神病理学史』

未読山の中から、渡辺哲夫『20世紀精神病理学史』と『死と狂気』を読む。どちらもちくま文庫から。『20世紀精神病理学史』のほうは、予想はついていたけれども、やはり「歴史」ではなかった。著者自身が、「本書の意図は、20世紀精神病理学を出来事の連続と…

太宰治の心中

未読山の中から、太宰治の心中事件の真相を論じた書物を読む。文献は、長篠康一郎『太宰治 武蔵野心中』(東京:広論社、1982)を読む。昭和二十三年の六月十三日の夜更けに太宰治は山崎富栄とともに玉川上水に身を投げて心中した。人気作家の心中は大きな話…

アメリカ移民とトラホーム

未読山の中から、東欧からアメリカに移民したユダヤ人のトラホームを論じた論文を読む。文献は、Markel, Howard, “’The Eyes Have It: Trachoma, the Perception of Disease, the United States Public Health Service, and the American Jewish Immigration…

パラケルススの無邪気

パラケルススの勉強が続く。アレクサンドル・コイレのパラケルスス論を読む。文献は、『パラケルススとその周辺』鶴岡賀雄訳(東京:書肆風の薔薇、1987)アレクサンドル・コイレはフランスの偉大な科学思想史の先達で、学生時代によく読んでいた。才気走っ…

パラケルススと近代科学

パラケルススを「その後」の時代と連関させて論じた著作を読む。文献は、チャールズ・ウェブスター『パラケルススからニュートンへ 魔術と科学のはざま』金子務監訳・神山義茂・織田紳也訳(東京:平凡社、1999)。昨日のゲスナーについての論文と同じ碩学の…

パラケルススとゲスナー

コンラート・ゲスナーによるパラケルスス批判を分析した秀逸な論文を読む。文献は、Webster, Charles, “Conrad Gesner an the Infidelty of Paracelsus”, in B. Schmitt ed., New Perspectives on Renaissance Thoughts (London: Duckworth, 1990), 13-23. …

パラケルススの宗教思想

パラケルススの宗教思想と自然科学思想の関係を論じた書物を読む。文献は、K. ゴルトアンマー『パラケルスス-自然と啓示』柴田健策・榎木真吉訳(東京:みすず書房、1986)。著者はパラケルスス著作集の宗教思想編の編集の任にあたった碩学で、ドイツ的な重…

パラケルスス伝・2

必要があって、種村季弘のパラケルスス伝を読む。文献は、種村季弘『パラケルススの世界』(新装版、東京:青土社、1986)ドイツ文学者の種村季弘のパラケルスス伝は、1974年から二年間にわたって『現代思想』に連載されたもので、日本人の手になる科学者・…

パラケルスス伝・1

必要があって、16世紀のヨーロッパ最大の異端の医者、パラケルススの伝記を読む。文献は、大橋博司『パラケルススの生涯と思想』(東京:思索社、1988)告白すると、歴史上の医者で私がもっとも苦手にしているのはパラケルススである。学生時代に、先生もよ…

『解剖の時間』

必要があって、解剖図譜の美術評論を読む。文献は、養老孟司・布施英利『解剖の時間-瞬間と永遠の描画史』(東京:哲学書房、1987)私は不勉強で読むのは初めてだが、おそらく解剖図譜を興味深く読み解くという知的な文化を定着させた書物の一つなのだろう…

江戸の博物学者たち

必要があって、江戸の本草学についての書物を読む。文献は、杉本つとむ『江戸の博物学者たち』(東京:講談社学術文庫、2006)貝原益軒、小野蘭山、畔田翠山ら、江戸時代の本草学者たちの著作を紹介した書物である。本草学というのは、ヨーロッパのマテリア…

スシ・エコノミー

出張の移動時間にsushi の経済学・社会学的な分析をしたジャーナリストが一般向けに書いた本を読む。文献は、Issenberg, Sasha, The Sushi Economy (London: Penguin Books, 2007). この本は書評紙で誘惑されて買って成功した本で、一気に読んだ。 きっと「…

瀬戸内の島の水利

必要があって、瀬戸内につきだす東和町の地方史を読む。文献は、宮本常一・岡本定編著『東和町誌』・第二巻・須藤護『集落と住居』(東和町、1976)。民俗学の大家の宮本常一が生まれ、フィールドワークをした土地の民俗学的研究を、宮本の弟子が仕上げたも…

ボルティモアの水族館

出張中の空いた時間に、アメリカ・ボルティモアの国立水族館 (National Aquarium at Baltimore) に行く。別料金を払うとイルカの曲芸や大迫力の四次元映像(って何だろう?)も観られたらしいけれども、シンプルに海の生き物たちを見るのが愉しかった。合計…

『スキャナー・ダークリー』

出張の移動時間中にフィリップ・K・ディック『スキャナー・ダークリー』を読む。浅倉久志の新訳がハヤカワ書房から出ている。1977年に出版された小説で、おとり麻薬捜査官が自ら麻薬中毒になって脳と精神が蝕まれて廃人になる(「燃え尽きる」という言葉が使…

心臓の歴史

未読山の中から、心臓の歴史を一般向けに解説した書物を読む。文献は、Peto, James ed., The Heart (New Haven: Yale University Press, 2007).ロンドンの新しい文化スポットになっている感すらあるウェルカム医学博物館の展示に基づいて編まれた書物。心臓…

東京の地形

必要があって地形学・地質学を一般向けに解説したエッセイ集を読む。文献は、貝塚爽平『富士山はなぜそこにあるのか』(東京:丸善、1990)コレラの疫学のための地質学の勉強が続く。英語圏の医学史研究では、同じ都市において、「地形」が疫学的に大きな意…

室井佑月『熱帯植物園』

必要はなかったけれども、アマゾンで赤坂真理の文庫本をたくさん買ったときに、皆さんもご存知の「この商品をお買い上げの方は・・・」というのに釣られて買った作品。「室井佑月」という文字列にはなんとなくなじみがあって、女優かモデルだろうと思ってい…

赤坂真理『ヴォイセズ / ヴァニーユ』

赤坂作品シリーズの最後。 「ヴォイセズ」「ヴァニーユ」の他に「白い脂の果実」という中篇をおさめたもの。「ヴァニーユ」は、たしか映画化もされた有名な作品で、実は読むのは初めてだけれども、たしかに映画化しやすい筋立てである。会社をリストラされて…

赤坂真理『ミューズ』

赤坂作品の記事が続きます。 野間新人賞を受賞した作品で、それ以前の作品が精神と身体の解剖=病理学的なコアな世界に浸っていたのに対し、この作品はかなりメインストリームだという感じがする。ストーリーがあるし、登場人物(実質上は二人だけれども)は…

赤坂真理『コーリング』

赤坂真理の初期短編集を読む。いわゆるリストカッターの、自傷する女の子たちの自助グループを題材にした表題作「コーリング」の他に、「解離性自己同一性障害」の女性が歯医者で親知らずを抜く「フィギュアズ」、同じく歯を抜く話の「最大幅7ミリ」など。「…

赤坂真理『ヴァイブレータ』

必要があって赤坂真理『ヴァイブレータ』を読む。講談社文庫から。アルコール依存と食べ吐きを繰り返している女性のルポライターが、深夜のコンビニでトラックの運転手にあって、彼とともに東京-新潟の「航路」の時間を過ごす。彼と話もするし、トラック運…

『食道楽』

必要があって村井弦斎『食道楽』を読む。黒岩比佐子の解説で岩波文庫版が出ている。 学生に教えてもらった本で、明治36年1月から1年間『報知新聞』に連載された、当時の花形人気コラムで、順次単行本化されるや、6ヶ月で30版を超える大ベストセラーになった…

『女嫌いのための小品集』

出張の飛行機の中で、パトリリア・ハイスミス『女嫌いのための小品集』を読む。宮脇孝雄訳で河出文庫から出ている。愚かだったり卑劣だったり偏執狂的だったり、色々な女性主人公の醜い生き様を冷笑を浮かべて描いた短編を集めたもの。アメリカ風の下品なカ…

個人を対象にした公衆衛生

20世紀のバーミンガム(イギリス)とヨテボリ(スウェーデン)の結核対策を比較した論文を読む。論点がシャープで、大学院の授業などで読ませるとすごくいい論文なんだろう。Niemi, Marjaanna, “The ‘Disappearance of Environmental Problems: The Re-Focus…

戦前日本のコカイン産業

戦前日本のコカイン産業についての研究論文を読む。文献は、Karch, Steven B., “Japan and the Cocaine Industry of South East Asia, 1864-1944”, in Paul Gootenberg, Cocaine: Global History (London: Routledge, 1999).知らなかったのは私だけかもしれ…

20世紀初頭インドのコカイン

未読山の中から、20世紀インドのコカイン依存症を論じた論文を読む。文献は、Mills, James H., “Drugs, Consumption and Supply in Asia”, Journal of Asian Studies, 66(2007), 345-362.20世紀の初頭からインドではコカインの悪用が深刻化した。もとは医学…

タイにおける近代医学

未読山の中から、タイの医学の近代化を論じた論文を読む。文献は、Puaksom, Davisakd, “Of Germs, Public Hygiene, and the Healthy Body: the Making of the Medicalizing State in Thailand”, Journal of Asian Studies, 66(2007), 311-344. この主題につ…

冷水浴

先日の本から面白いポイントがあったので。文献は、Smith, Virginia, Clean: a History of Personal Hygiene and Purity (Oxford: Oxford University Press, 2007)初期近代から二百年くらい「身体を冷たくする」ことが流行した。ここでいう「冷たさ」という…