Entries from 2009-06-01 to 1 month

精神病院の秩序の歴史

新着雑誌にとても参考になる論文が掲載されていた。文献は、Meier, Marietta, “Creating Order: a Qualitative Analysis of Psychiatric Practice at the Swiss Mental Institutions of Burghoelzli and Rheinau between 1870 and 1970”. History of Psychia…

公共圏概念とイギリス史

いただいた書物のうちの論文を一本を読む。大野誠編『近代イギリスと公共圏』(京都:昭和堂、2009)ジョアンナ・イニス「イギリス史研究における公共性概念の登場」大野誠編『近代イギリスと公共圏』(京都:昭和堂、2009), 3-46.他の病気もそういう側面は…

朝鮮使節の見た中世日本

必要があって、宋希ケイ(ケイはたまつくりに景)『老松堂日本行録-朝鮮使節の見た中世日本』村井章介校注(東京:岩波文庫、1987)に目を通す。1420年に日本に来て将軍足利義持に謁見した朝鮮使節、宋希ケイ(ケイはたまつくりに景)がしたためた紀行文で…

南宋の疾病

必要があって、中世中国の揚子江流域における疾病を論じた論文を読む。文献は、岡元司「疫病多発地帯としての南宋期両浙路-環境・医療・信仰と日宋交流」『東アジア海域交流史』第三号(2009)45-64. マクニールは『疫病と世界史』の中で、中国の南と北が、…

江戸の医薬

必要があって、三好一光『江戸生業物価事典』(東京:青蛙房、2002)をチェックする。もともとは1960年に出版された本だけれども、江戸ブームで復刻された。「医薬編」が、江戸時代から明治にかけての売薬などを事典形式で説明していて重宝で、時々使ってい…

イエズス会士が見た「悪魔」

必要があって、イエズス会の日本報告を読む。文献は、『16・17世紀イエズス会日本報告』松田毅一監訳(京都:同朋社、1987-) 16世紀中葉から17世紀のイエズス会士が、日本における布教の様子を書き送った報告書の全訳。キリスト教の信徒の獲得、教会や学校…

『日本儒医研究』

必要があって、安西安周『日本儒医研究』に目を通す。昭和18年に刊行された書物を1981年に青史社という出版社が翻刻したもので、日本医学史の黄金時代に書かれたほかの本と同じように、情報量が多い本で、江戸時代の「医者の儒学思想と儒者の医学思想」につ…

『日本災異志』

必要があって、『日本災異志』をチェックする。これも古い本で、もともとは明治27年に刊行された書物を、昭和48年に思文閣が復刊したもの。天然痘が最初に侵入した土地では甚大な被害が出るが、それが常在化・準常在化すると、小児病になっていく。日本では…

『日本の天災・地変』

必要があって、『日本の天災・地変』上・下をチェックする。もともとは戦前に東京府の社会課が作成した災害年表で、年代記などから地震や洪水や噴火といった天変地異を拾って並べたもの。地震・火災・風水害・凶荒(旱魃、虫害、冷害)・疫疾・飢饉と並べら…

『雑兵物語』

必要があって、江戸時代初期に成立した『雑兵物語』を読む。中村通夫・湯沢幸吉郎校訂の岩波文庫版。鉄砲足軽や鑓足軽といった、戦国時代以来の戦で活躍した兵士(雑兵)たちが、互いに話をするという形式で、戦場での心得などを語った物語で、ある種の兵法…

戦国の村と雑兵

必要があって、戦国時代についての歴史入門書を読む。文献は、舘鼻誠『戦国争乱を生きる-大名・村、そして女たち』(東京:日本放送出版協会、2006)有名な戦国大名を取り上げて軍記物や大河ドラマが描く世界を離れて、その領国統治の方法や、村人の行動と…

『チェネレントラ』

今日は無駄話。新国立劇場でロッシーニのオペラ『チェネレントラ』を観る。シンデレラの話だけれども、下敷きにした原作が違っていて、ペローが有名にしたかぼちゃの馬車もガラスの靴も12時を打つ時計もない。その代わりに単純な形式とロッシーニ・クレッシ…

初期近代のイギリスの企業

必要があって、初期近代のイギリスの企業について論じた本をチェックする。文献は、ジョオン・サースク『消費社会の誕生 近世イギリスの新企業』三好洋子訳(東京:東京大学出版会、1984)16世紀の半ば、具体的にはエリザベスの治世のころから、イギリスで「…

『もののけ』

必要があって、「もののけ」についての書物を読む。文献は、山内昶『もののけ』I・II(東京:法政大学出版局、2004)。未開社会から現代まで、日本・中国・ヨーロッパの各国を自由自在に飛び回って博引傍証で議論を進めている。これは、一つ間違うと読むに…

日本の「南進論」

必要があって、日本の南進論の本をチェックする。文献は、後藤乾一『昭和期日本とインドネシア』(東京:勁草書房、1986)大恐慌をきっかけに、第一次世界大戦後の国際政治・経済の秩序に重要な亀裂が生じ、その中で日本の国内状況も対外政策も大きく変化し…

『方忌みと方違え―平安時代の方角禁忌に関する研究』

必要があって、方忌みと方違えについての研究書を読む。文献は、ベルナール・フランク『方忌みと方違え―平安時代の方角禁忌に関する研究』(東京:岩波書店、1989)フランス人が書いた平安の忌みについての研究書。平安時代には仏教と神道以外にも、中国起源…

『喫茶養生記』

必要があって、栄西『喫茶養生記』古田紹欽訳注(東京:講談社学術文庫、2000)を読む。日本史の教科書にまで出てくるこの有名な医学書を読むのは初めてで、今に始まったことではないが、自分の不勉強を恥じる。この書は、茶の効用をとき、その植物としての…

塩田千春

今日は半分無駄話。ロンドンのRoyal Academy の友の会の新着の雑誌を読んでいたら、ロンドンのサウスバンクにある The Hayward という現代美術のギャラリーで、Walking in my mind というタイトルの美術展をするという記事があった。10人の芸術家が自分の創…

黒田清輝と明治のヌード

必要があって、黒田清輝と明治のヌードの研究書を読む。文献は、勅使河原純『裸体画の黎明―黒田清輝と明治のヌード』(東京:日本経済新聞社、1986)黒田清輝を中心に、明治初期の日本の洋画家たちが、日本美術界に裸体画を定着させようとした状況を、具体的…

黒田清輝

必要があって、黒田清輝の画集を眺める。いい画集が意外になくて、中央公論社から出た『日本の名画』シリーズの第五巻を見た。収録している絵は多くないし、印刷もいまの水準と較べてしまうと悲しい出来だけれども、山崎正和がエッセイ風の文章を寄せ、若き…

開業成功術-いまから百年前

必要があって、100年前の医者向けの開業成功術を読む。文献は、青風白雨楼主人『お医者論』(東京:東亜堂書房、1913)著者については、私はいっさい知らない。国会図書館のカタログをみると、『お医者論』と同じ系統の医療論としては、『今のお医者』『現代…

ディーテイルズ No.14 正解

ディーテイルズNo.14 の正解は、ルネ・マグリット『イメージの裏切り』です。「これはパイプではない」と記されていて、こちらのほうがこの絵の「名前」としてよく知られています。 このクイズでは、いつもは絵の細部を切り取るのですが、今回は、かなり大き…

京都の専門医たち

必要があって、京都の医者の歴史の本を読み直す。文献は、森谷尅久『京医師の歴史 日本医学の源流』(東京:講談社現代新書、1978)著者は京都市史編纂所の所員で、京都の都市の様子を生き生きとつたえるような資料を次々と取り出して見せてくれる楽しさがあ…

中世の癩者

必要があって、日本中世の癩者についての論考を読む。文献は、横井清『中世民衆の生活文化』上・中・下(東京:講談社学術文庫、2007)「中世民衆史における『癩者』と『不具』の問題」下巻131-191ページ。癩やハンセン病をどう呼ぶかということからして難…

中世の非人

必要があって、網野善彦『中世の非人と遊女』(東京:講談社学芸文庫、2005)を読む。中世の非人の問題は、高水準の研究の蓄積がある領域で、門外漢から見ると敷居が高くて、「専門家以外立ち入り禁止」の札が立っているような印象がある。けれども、網野の…

古代から近代のマラリア

必要があって、マラリアのコンパクトな歴史を読む。短いけれども、マラリアの歴史について素晴らしい仕事を発表してきた実力者が書いたもので、事例の選び方とかその説明の仕方とか、ほれぼれするような鋭さがある。文献は、Packard, Randall M., The Making…

中世イスラム社会の狂人たち

必要があって、中世イスラム社会の狂気の歴史を読みなおす。文献は、Dols, Michael, Majnūn: the Madman in Medieval Islamic Society, ed. by Diana E. Immisch (Oxford: Clarendon Press, 1992). 著者は、非常に優れたイスラム医学史の研究者だったが、こ…

北米・カナダの感染症

必要があって、17世紀から19世紀の北米・カナダの感染症を論じた書物を読みなおす。文献は、Hackett, Paul, A Very Remarkable Sickness: Epidemics in the Petit Nord, 1670-1846 (Winnipeg: University of Manitoba Press, 2002).16世紀以降、ヨーロッパ人…

養生と人間形成論

必要があって、瀧澤利行『健康文化論』(東京:大修館、1998)を読み直す。日本で社会の中の医学・医療という問題を考えるときに、「養生」の問題を避けて通ることはできない。「養生」というと、現在では貝原益軒の『養生訓』(1712)が有名だけど、この本…

八甲田山雪中行軍

必要があって、八甲田山雪中行軍に関する論文を読みなおす。文献は、松木明知「雪中行軍遭難事件の真相」で、松木明・松木明知『津軽の文化誌』(弘前:津軽書房、2007)に採録されている。筆者はもと弘前大学医学部の先生で、青森や北海道の日本の医学史研…