Entries from 2010-01-01 to 1 month

『近代の再構築』

必要があって、近代日本の政治思想史における「自然」という概念の変遷を論じた書物を読む。文献は、J.A. トーマス『近代の再構築―日本政治イデオロギーにおける自然の概念』杉田米行訳(東京:法政大学出版局、2008) 政治思想の中で「自然とは何か」という…

大正の心霊術

必要があって、心霊術というか超心理科学というか、その手の精神科学の歴史の本を読む。(「その手の」精神科学というあたり、自分で、なんと偏見に満ちた書き方なんだろうと反省しています。)文献は、井村宏次『スーパーサイエンス 異形の科学を拓いたサイ…

統合失調症と硫黄発熱療法

みなさま、特にお医者さまに伺いたいことがあります。はるか昔の精神科の療法についてですが、特に精神科である必要はないかもしれません。硫黄発熱療法は、統合失調症、昔の言葉でいう早発性痴呆にどのような効果があると考えられるか、ということです。昭…

明治の看護婦物語

必要があって、明治の看護婦物語を読む。文献は、上野義八郎『看護婦美譚 附人体臓器の会議』(東京:敬業社、1898)若く徳高く美しい女性が真の看護を見つける物語。主人公は若松鶴子という女性で、父親は陸奥の漢方医で、西洋医学への切り替えで困窮する。…

平野長官の「斟酌」

今日は無駄話。 政権交代が起きるまえに書いた、麻生元総理の漢字誤読問題と同じ系統の話です。麻生前総理の「未曾有」、鳩山総理の「朝三暮四」と、総理大臣の国語力が問題になっている。いま平野官房長官も「斟酌の理由がない」という言葉で躓いているけれ…

インフルエンザとマスク

必要があって、内務省衛生局の報告書である『流行性感冒』を読む。文献は、内務省衛生局編『流行性感冒 「スペイン風邪」大流行の記録』(東京:平凡社、2008). 1918年から21年までに39万人の死者を出したとされるいわゆる「スペイン風邪」についての報告書…

『夢判断の書』

必要があって、アルテミドロス『夢判断の書』を読む。最古の夢判断の書として有名だけれども、この書物が翻訳されている幸福をかみしめる。文献はアルテミドロス『夢判断の書』城江良和訳(東京:国文社、1994)読むのは初めてで、それはそれは面白い書物で…

マリー・ストープス『結婚愛』

必要があって、マリー・ストープスの『結婚愛』を読む。1917年に出版されるや、結婚と性のガイドとしてあっというまにイギリスで国民的な地位を築いた書物。少し前までは、結婚する娘に母親が渡す書物の代表であったという。しばらく前に Oxford Classics に…

フェリシアン・ロップス

間違えて借りてしまった本を眺めていたら、面白い版画があったので記事にする。しばらく前に記事にしたジャン・グランヴィルの版画集を借りたつもりが、大学の図書館のカタログに間違いがあって、別の画家の作品集だった。その別の画家というのが、フェリシ…

「狂人もただは怒らぬ」

先日取り上げた金子準二の本で、日本の精神病についての俚言を集めた部分がある。精神病についてのことわざなどを集めたもので、もちろん私が知らないものばかりであった。「狂人に刃物」「狂人にたいまつ」(狂人にわざわざ危険なものを持たせること)「狂…

ラエネック『聴診法原理』

必要があって、ラエネック『間接聴診法』の翻訳を読む。文献は、ラエンネック『聴診法原理および結核論』訳ならびに解説・柴田進(東京:創元社、1950)私は、寡聞にして、この書物の日本語訳が出ていたことを知らなった。ラエネックの全訳ではなく、第二版…

漱石と「小公子」と精神科療法

必要があって、金子準二の日本の精神医学の歴史の資料集にあたるものを読む。文献は、金子準二『日本精神病名目志・日本精神病俚言志・日本精神病志・日本精神病作業療法志』金子準二は日本の精神医療についての大著を書こうという野望を持っていて、そのた…

Wellcome History

Wellcome History の最新号に目を通す。今回は、ケンブリッジで新たに始まった生殖の歴史の学際的なプロジェクトの紹介がたくさん載っていた。たまたま妖怪学で有名な文系の先生と理系の発生生物学者との間での対話的な授業の裏方をすることになっていたので…

『スキャンダルと公共圏』

必要があって、18世紀の「公共圏」の問題を整理した論考を読む。文献は、ジョン・ブルーア『スキャンダルと公共圏』近藤和彦編(東京:山川書店、2006)精神病というのは、「私的な苦悩の中でもっとも公的なもの」である。この的確で豊かな広がりを持つフレ…

スコットランドの精神病院

必要があって、19世紀スコットランドの精神病院で後半生を過ごした女性の回想録を読む。文献は、Watt, Christian, The Christian Watt Papers, ed. By David Fraser (Edinburgh: Birlinn, 1988). クリスティアン・ワットは1833年にスコットランドの漁港のフ…

『陳列棚のフリークス』

必要があって、歴史上の畸形をめぐる医学の逸話を集めた書物を読む。文献は、ヤン・ホデンソン『陳列棚のフリークス』松田和也訳(東京:青土社、1998) 自然発火する人体、胃の中で増殖する蛙と蛇、身体の中で発生して肉の中で増えるシラミ、巨人、小人、生…

『精神病棟』

必要があって、アメリカの精神病棟でインターンをした医者の物語を読む。文献は、S.B. シーガー『精神病棟』相原真理子訳(東京:平凡社、1992) シーガーは、医学部を出たあと救急病棟で仕事をしていたが、精神医学を学びなおして、38歳のときにインターン…

ロイ・ポーター『人体を戦場にして』

必要があって、ロイ・ポーターの医学史の通史を読む。文献は、法政大学出版会から出ている『人体を戦場にして』。訳者は、ポーターの書物の訳者として定評がある目羅公和である。テーマごとの構成を取っていて、「疾病」「医者」「病院」「研究室」など、医…

18世紀のライブラリアンの日記

ちょっと書棚を整理していたら、いつどこで買ったのかはもちろん、なにを思ってこんな本を買ったのか、記憶にない本が出てきた。Wanley, Humphrey, Diary of Humphrey Wanley, 2 vols, ed. By C.E. & R.C. Wright (London) The Bibliographical Society, 196…

シャルコーの伝記

必要があって、フランスの偉大な神経医で、そのヒステリーの臨床講義は医学を超えてパリの社会現象となったシャルコーの伝記を読む。文献は、Goetz, Christopher G., Michel Bonduelle and Toby Gelfand, Charcot: Constructing Neurology (Oxford: Oxford U…

フロイト派精神分析の「最終決算」

必要があって、フロイトの精神分析理論が「正しい」かどうかを検討した書物に目を通す。文献は、Erwin, Edward, A Final Accounting: Philosophical and Empirical Issues in Freudian Psychology (Cambridge, Mass.: The MIT Book, 1996). フロイトが構築し…

夢の歴史

必要があって、しばらく前から気になっていた「夢の歴史」についての論文集に目を通す。文献は、Pick, Daniel and Lyndal Roper eds., Dreams and History: the Interpretation of Dreams from Ancient Greece to Modern Psychoanalysis (London: Routledge,…

内村祐之『精神医学の基本問題』

必要があって、東大精神科の教授であった内村祐之が書いた、精神医学の基本問題をめぐる歴史書を読む。文献は、内村祐之『精神医学の基本問題―精神病と神経症の構造論の展望』(東京:医学書院、1972)復刻版が2009年に出ている。ずっと前に昔、図書館で目を…

日本人類学の歴史

新着雑誌を見ていたら、日本人類学の歴史についてのシンポジウムが開催されていた。最近、ひょんなことで(笑)、日本人類学の歴史と少しだけ関係がある主題についての論文を仕上げているので、よろこんで読む。文献は、坂野徹ほか「シンポジウム <昭和史>…

玄武は沼にいてほしい

今日は無駄話。奈良に短い旅行に行ってきて、遷都1300年の盛大な催し物の企画で賑わっていた。その中で、平城京を定めるときに、桓武天皇は「四禽、図にかない、三山、鎮をなす」と言い、陰陽五行説に基づいてこの地を都と定めたそうだ。「四禽」の「禽」と…

『風車小屋だより』

しばらく前に深い理由なしに買って、たまたま手元にあったアルフォンス・ドーデの『風車小屋だより』を読む。岩波文庫の古い訳。ドーデはパリ在住の文人だったが、時折プロヴァンスを訪れていて、田舎からの便りという形で素朴な人生の価値をうたって文章に…

精神分析の科学論

必要があって、精神分析の科学論の傑作を読む。文献は、Chertok, Leon and Isabelle Stengers, A Critique of Psychoanalytic Reason: Hypnosis as a Scientific Problem from Lavoisier to Lacan, translated from the French by Martha Noel Evans in coll…

精神分析の誕生

必要があって、精神分析の誕生を論じた書物を読む。文献は、L. シェルトーク、R. ド・ソシュール『精神分析学の誕生―メスメルからフロイトへ―』長井真理訳(東京:岩波書店、1987) 「解説」の中で中井久夫も書いているが、この書物がフランスで出版される直…

ジェイムズ『心理学』と新年の決意

昨日取り上げたジェイムズの Principles of Psychology を縮約した版を翻訳したもので、読んだ感じでいうと、だいたい半分くらいになっている。この本の全体像を一度通読して頭に入れておきたかったので、岩波文庫から上下二巻で出ている日本語訳を買った。…