Entries from 2010-09-01 to 1 month

「よい医療とは何か」

必要があって、「よい医療とは何か」をめぐる概念の変遷を研究した論文を読む。文献は、Berc, Marc, “Turning a Practice into a Science: Reconceptualizing Postwar Medical Practice”, Social Studies of Science, 25(1995), 437-476. 北米の著名な医学雑…

バイオメディシンと予後

必要があって、バイオメディシンのもとでの「予後」の役割についての論文をざっと読む。文献は、Keating, Peter and Alberto Cambrosio, “Beyond ‘Bad News’: the Diagnosis, Prognosis and Classification of Lymphomas and Lymphoma Patients in the Age o…

アメリカの初期公衆衛生

アメリカの初期公衆衛生についての論文を読む。優れた洞察が多く含まれていた。文献は、Rosencrantz, Barbara Gutmann, “Cart before Horse: Theory, Practice and Professional Image in American Public Health, 1870-1920”, Journal of the History of Me…

アメリカの優生学と公衆衛生

必要があって、アメリカの優生学と公衆衛生の重なりあいについて論じた論考を読む。歴史のプロというより、公衆衛生関係者一般に向けて書いたものだから、実証が甘い話はあるけれども(というより実証がそもそもできない水準に議論を設定した部分すらある)…

埼玉の国保直営診療所

必要があって、戦時期の保健医療問題を、厚生省や国策レヴェルではなく、地域社会の側から検討した論文を読む。文献は、鬼嶋淳「戦時期の保健医療問題と地域社会―埼玉県入間郡富岡村を中心に―」『史観』No.152(2005), 13-35. 昭和戦前期の国民の体位向上は、…

『階級という言語』

イギリスのニュー・レフト史学の古典的な書物の訳書をいただいたので、序章だけ読む。文献は、ステッドマン=ジョーンズ『階級という言語―イングランド労働者階級の政治社会史1832-1982』長谷川貴彦訳(東京:刀水書房、2010)内容要約というより、無駄話で…

「細菌学革命」は存在したか

必要があって、「細菌学革命」という概念を批判的に検討した論文を読む。文献は、Worboys, Michael, “Was There a Bacteriological Revolution in Late Nineteenth-Century Medicine?”, Studies in the History and Philosophy of Biology and Biomedical Sc…

東京のスラムクリアランスとコレラ

必要があって、明治14年の東京の大火の後に行われた、スラムクリアランスの資料を読む。文献は、『日本近代思想体系 都市・建築』藤森照信編(東京:岩波書店、1990)に収録されている、「東京十五区臨時会議事録」と「橋本町元差配人嘆願書」。それぞれ, 7-…

疫病は江戸のどこで起きたか

しばらく前に買った富士川游編『杏林叢書』を眺めていたら、今考えているテーマについて使える引用があったので、忘れないように書いておく。文献は、森立之『遊相医話』富士川游編『杏林叢書』上・下・復刻版(京都:思文閣、1976)、下巻315-440.疫病が…

エーテル・ドリンキング

新着雑誌から20世紀ポーランドのエーテル・ドリンキングについての論文を読む。文献は、Zandbergt, Adrian, “’Villages … Reek of Ether Vapours’: Ether Drinking in Silesia before 1939”, Medical History, 54(2010), 387-396.医学史のエーテルはその麻酔…

オスマン時代のエジプトの医療者たち

同じく新着雑誌から、オスマン=トルコ支配下のエジプトの医療者の状況を調べた論文を読む。文献は、Gadelrab, Sherry Sayed, “Medical Healers in Ottoman Egypt, 1517-1805”, Medical History, 54(2010), 365-386.ナポレオンのエジプト遠征に従軍したフラ…

デンマークのショック療法

新着雑誌から、20世紀デンマークの精神医療におけるショック療法についての論文を読む。文献は、Kragh, Jesper Vaczy, “Shock Therapy in Danish Psychiatry”, Medical History, 84(2010), 341-364.20世紀精神医学におけるショック療法を再評価しようという…

『グレイの解剖学』

書籍を出版社からいただいて、『グレイの解剖学』の誕生を語った書物を読む。Richardson, Ruth, ルース・リチャードソン『グレイ解剖学の誕生―二人のヘンリーの1858年』矢野真千子訳(東京:東洋書林、2010)著者は、今ではシカゴ大から出版されている Death…

環境史と公害研究

新着雑誌から、環境史と公害研究のヒストリオグラフィを論じた研究を読む。文献は、Sellers, Christopher C., “Cross-Nationalizing the History of Industrial Hazard”, Medical History, 54(2010), 315-340. 著者はアメリカの鉛毒の歴史についての傑作を書…

コレラの療法

必要があって、コレラの療法についての論文を読む。文献は、Howard-Jones, Norman, “Cholera Therapy in the Nineteenth Century”, Journal of the History of Medicine and Allied Sciences, 27(1972), 373-395.かつてのコレラに対する療法を「善意に満ちた…

インドの脚気研究

新着雑誌から、インドの脚気研究の歴史を読む。文献はArnold, David, “British India and the ‘Beriberi Problem’, 1798-1942”, Medical History, 54(2010), 295-314. インドの帝国医学史研究の大御所だけあって、洞察満載の論文。脚気の歴史というと、日本…

飢饉の歴史

必要があって、飢饉の歴史をコンパクトかつ社会科学の洞察ゆたかにまとめた書物をチェックする。文献は、Ó Gráda, Cormac, Famine: a Short History (Princeton: Princeton University Press, 2009). 飢饉のときの人身売買などについてのメモ。飢饉のときに…

漱石の脳

立川昭二『病の人間史』(文春文庫)を読んでいて、気がついたことがあったのでメモ。明治・大正・昭和の有名人の病気について調べて、病跡学と文化論をまぜたような感じにした一般向けの本。たくさんの情報が詰まっていて私は重宝している。人物は樋口一葉…

素因論と細菌学

必要があって、ダーウィンの影響のもと新たに注目を浴びた<素因>の概念が、細菌学とどのように関係したかという大問題をエレガントに扱った小論文を読む。文献は、Bynum, W.F., “Darwin and the Doctors: Evolution, Diathesis, and Germs in 19th-Century…

沖縄のコレラ

必要があって、明治12年の沖縄のコレラ流行を見聞した医者の紀行文を紹介した論文を読む。文献は、深瀬泰旦「明治一二年沖縄県のコレラ流行と土屋寛信」『日本医史学雑誌』45(1999), 373-400.明治12年の3月に愛媛の温泉郡魚町で始まったコレラは、明治以降で…

公衆衛生とネットワーク分析

必要があって、ネットワーク分析を使った公衆衛生の研究のレヴューを読む。文献は、Luke, Douglas A. and Jenine K. Harris, “Network Analysis in Public Health: History, Methods, and Applications”, Annual Review of Public Health, 28(2007), 69-93. …

感染症の克服

必要があって、古典的な「感染症の克服」ものを翻訳で読む。文献は、ハリー・F・ダウリング『人類は伝染病をいかにして征服したか』竹田美文・清水洋子訳(東京:講談社学術文庫、1982)恥ずかしながら、この書物はうすぼんやりとは気が付いていたけれども、…

ありがとうございました

昨日、皆さまにお願いしました、ウェルカム医学史図書館所蔵の Chiropractor の件ですが、何人かの方からはメールまでいただきました。 「整骨」(「正骨」)の図版であるというのが正解のようです。 長崎大学所蔵の図版のご紹介もいただきました。 http://b…

あんま・整体の歴史? - 助けてください

今日は、読者の皆様に助けていただきたく、お願いいたします。少し経緯を話すと、Thames and Hudson という美術書の出版社が、Great Discoveries in Medicine (仮)というタイトルの図解の医学史の一般書を出すことになり、私の旧師である Bill Bynum 先生…

バーネット『感染症の自然誌』

昨日のメンデルゾーンの勢いにのって、マクファーレイン=バーネットの『感染症の自然誌』を読む。文献は、Burnet, Frank MacFarlane, Natural History of Infectious Disease, 3rd ed. (Cambridge: At the University Press, 1962).これは、『伝染病の生態…

生態学的流行病論の確立

必要があって、20世紀初頭に古典的な細菌学から離れ、生態学的な流行病論に移行していく過程を論じた論文を読む。文献は、Mendelsohn, J. Andrew, “From Eradication to Equilibrium: How Epidemics became Complex after World War I”, in Chirstopher Lawr…

幕末の流行病と死亡への影響

必要があって、過去帳を使った江戸時代の死亡の研究を読む。文献は、菊池万雄「回向院過去帳」『日本大学理学部自然科学研究所研究紀要』5(1970), 1-29.私は自分ではやってみたことはないけれども、寺院に残っている過去帳を利用して死亡のパターンの研究が…

近現代日本医療史・研究報告会

科研「近現代の日本における医療の構造変化と歴史の重層」2010夏 第一回報告会プログラムを開催します。 この研究会はセミオープンで行います。どなたでも参加できます。参加ご希望の方はご一報ください。於:大阪大学豊中キャンパスhttp://www.osaka-u.ac.j…

日本のコレラ

必要があって、日本のコレラを素材にした思想史・文化史の研究を読む。文献は、Gramlich-Oka, Bettina, “The Body Economic: Japan’s Cholera Epidemic of 1858 in Popular Discourse”, EASTM, 30(2009), 32-73. 「コレラは徳川社会の the body economic の…

バルト『象徴の帝国』

ベルリンの友人にもらったロラン・バルトの 『象徴の帝国』の英訳を新幹線の中でめくっていたら、自分が得意になって日本(東京)の街の特徴だとついさっき彼に説明したことが、だいたいそのままバルトに書いてあった。バルトは学生時代に読んだから、きっと…