Entries from 2012-01-01 to 1 month

ヒステリー治療とクリトリス切除

産婦人科医とヒステリーScull, Hysteria から、有名なクリトリス切除手術の話をまとめておいた。ヒステリーはもともと子宮を意味する言葉から派生した病名であるし、17世紀以降、子宮ではなく神経が原因であるという説が受け入れられたあとでも、神経は子宮…

イスラムの巡礼

大英博物館で、「ハッジ」(Hajj) と呼ばれるイスラム教徒が行うメッカへの巡礼についての展示を見る。もともとは特に期待して行った展示ではなかったが、空間認識が変わるような素晴らしい内容だった。ハッジは、すべてのイスラム教徒が一生に一回は行わなけ…

ヒステリーの治療

Scull, Andrew, Hysteria: the Disturbing History (Oxford: Oxford University Press, 2009).アンドリュー・スカルの「ヒステリーの伝記」を読む。ちょっとみると、注や史実も少なく、シンプルなつくりの本に見えるけれども、もともと一般向けの本でもある…

高林陽展「精神衛生思想の構築」

高林陽展「精神衛生思想の構築―20世紀初頭イングランドにおける早期治療言説と専門家利害―」『史学雑誌』120(2011), no.4, 461-495.必要があって、高林陽展の論文を読み直す。19世紀末から20世紀前半にかけてのイギリスでは、精神病患者が受ける「スティグマ…

予防接種と免疫学の「モーバイル」

Martin, Emily, “Anthropology and the Cultural Study of Science”, Science, Technology, & Human Values, 23(1998), 24-44.エミリー・マーティンがSTSの学会に招待され、人類学者としてはじめて当学会のプレナリーで講演したものを原稿化した論文。マーテ…

ニカラグアの鉤虫症

Torres, Ligia Maria Pena and Steven Palmer, “A Rockefeller Foundation Health Primer for US-Occupied Nicaragua, 1914-1928”, CBMH/BCHM, 25(2008), 43-69.ニカラグアは、1914年から28年の15年ほどの期間にわたって、ロックフェラー財団の鉤虫症コント…

遺伝子工学における「自然」と「人為」

遺伝子工学における「自然」と「人為」未読山から読まなければならない論文を読む、基礎トレーニング。文献は以下の通り。Rheinberger, Hans-Joerg, “Beyond Nature and Culture: Modes of reasoning in the Age of Molecular Biology and Medicine”, in Mar…

松本清張『砂の器』

松本清張『砂の器』有名な長編推理小説。殺人事件の犯人を中年の刑事が追い詰めていく話で、何度も映画化・TVドラマ化されている。ストーリーの重要な部分で、ハンセン病の話題が出てくるので、何年か前のドラマ化では、患者団体などの抗議か、製作者側の判…

近藤麻理恵『人生がときめく片づけの魔法』

近藤麻理恵『人生がときめく片づけの魔法』(東京:サンマーク出版、2011)アマゾンか何かで推薦された。失礼な言い方をすると、もともとあまり期待していなくて、「広告に引っ掛かってしまったなあ」くらいで終わる本だと思っていた。私自身は、物の片付け…

クラフト・エヴィング商会『猫』

クラフト・エヴィング商会『猫』猫についての短い随筆を集めて一冊の書物とした本。1955年に『猫』として単行本になったものを、クラフト・エヴィング商会がすっきりとした本にプロデュースしなおして中央公論新社から再刊したものである。著者は、有馬頼義…

精神分裂病に対するカンフル痙攣療法

高瀬清・松下兼知・中江三郎「精神病、殊に精神分裂病の<カンフル>大量療法(第一報)」『日本医事新報』no.898(1939), 4195-4201.高瀬清は長崎医専の精神科の教授である。この論文は、メドゥーナがカルジアゾル痙攣療法を開発する途上で試した「カンフル…

インド人の孤独な食事

インド人の孤独な食事ストラボンが、メガステネースの言として、インド人は一人で食事をすることを記録している。「かれら(インド人)は常にひとりで食事をするのであって、すべての人に共通な一つの食事時間が存在しない。かれらは各自が欲するままに食事…

石川英輔『大江戸神仙伝』

石川英輔『大江戸神仙伝』1979年に出版され、その後講談社文庫に入った作品で、主人公が過去にタイムスリップするSF。製薬会社の冴えない科学者で、脱サラして物書きになった中年男の速見洋介が主人公で、彼が文政の江戸にタイムスリップするところから話が…

「お産革命」

著者は朝日新聞の記者で、ハンセン病の歴史や患者本位の病院改革の提唱など、医療系の著作がとても多い。この書物は、もともとは1979年に出版された書物を文庫化したものである。恥ずかしい話、私が日本の戦後の出産の歴史について知っていることは、このジ…

「文明という病」という思想―丘浅次郎

丘浅次郎『進化と人生 上・下』(東京:講談社、1976)丘浅次郎は、明治元年に生まれ、太平洋戦争での敗戦の前年の昭和19年に没した動物学者である。研究と教育というより、進化論や生物学に基づいて、公けの場で議論を発展させたことで知られる論客である。…

浅田一と男根と張形

浅田一『法医学ノート』(東京:東洋書館、1936)浅田が終戦直後に出した書物。疎開中で自分が書いたものをすべて散逸してしまったが、旧稿・別刷をまとめたもの。真面目な著作ではなく、大衆向けに猟奇的な犯罪やエロがかった短文をまとめたものである。長…

メチニコフの近代医学観と結核・ハンセン病

メチニコフ『近代医学の建設者』(岩波文庫)メチニコフは白血球の発見で著名な科学者である。もとはロシアのウクライナの生まれで、オデッサ大学で仕事をしていたが、1888年にパリのパストゥール研究所に移った。第一次世界大戦がはじまって、研究所が休業…

脱ヨーロッパと世界史

講談社版『世界の歴史』講談社『世界の歴史』の小さなお知らせが古書から出てきた。1976年か77年に配本を始めたシリーズで、全25巻で世界の歴史をカバーするシリーズである。「世界の歴史」という全体像を構成するときに、どの地域・どの時代に重点を置かれ…

昭和戦前期の医学と「童貞論」

浅田一『犯罪鑑定余談』(東京:武侠社、1929)同じく浅田一の書物である。基本は、鑑定書そのものや、鑑定書から説き起こしたようなエッセイ風のものが多い。そのなかで、大正15年に京都でおきた殺人事件で、小笛事件(白川四人殺し)と言われている事件に…

浅田一の法医学手引と精神鑑定

浅田一『実地家に必要なる法医学』(東京:克誠堂書店、1930)浅田は法医学が専門で、著作が非常に多く、その中には探偵小説や猟奇趣味と深い関係があるものもある重要な人物である。期間は正確にわからないが、『神経学雑誌』に「実地医家に必要なる法医学…

黄金伝説

ヤコブス・デ・ウォラギネによる『黄金伝説』は、13世紀に成立した聖人伝説集で、中世以降のヨーロッパ文化の基本的なテキストである。平凡社ライブラリーから四巻本で翻訳が出ていて、役に立つ註も多く打ってあって、大変な労作だと思うが、翻訳の文体にな…

南方熊楠『十二支考』

岩波書店のツィッターに乗せられて、新年に南方熊楠の『十二支考』のその年の項目を読むのは楽しかろうと思いついて、岩波文庫で上・下の2冊を買い求めて、「兎に関する民俗と伝説」と「田原藤太竜宮入りの話」の2章を読む。南方熊楠はロンドンに留学し、大…

ナイチンゲール『病院覚書き』

『病院覚書き』ナイチンゲールの主要な著作の一つ『病院覚書き』を読む。日本語の三巻本の著作集には翻訳されているのだけれども、これは抄訳であることに加えて、翻訳されている部分の重要な図版も省略されているので、あまり使えない。オリジナルは、Googl…

五家荘・黒島の精神病調査

向笠廣次・岡部重穂・古賀節郎「血族結婚地区に於ける精神病一斉調査成績(其一)」『民族衛生』9(1941), 355-398.東京帝大の内村祐之が八丈島・三宅島で精神病調査を行って、精神病・精神障害についての優生学的な調査が始まったが、九州帝大の下田光造のチ…

性格・人格の精神医学(野村章恒)

野村章恒「自暴自棄の病理―精神病医の手帖」『臨床文化』8(1940), 46-49.著者の野村は後に慈恵医科大学の教授となる。森田正馬の伝記なども書いている。この時点では鎌倉脳病院の院長であった。祖母から聞いた俗語の格言として「上見りゃ放図なし。下見りゃ…

杉田直樹の立ち位置について

杉田直樹「精神病学に於ける臆想」『臨床文化』vo.8, no.2(1941), 1-6.インシュリン・ショック療法やカージアゾル・ショック療法は、精神医学にも衝撃をもたらした。「分裂病は不治ではない」という現実は、分裂病の理解を再編成する必要があることを医者た…

戦前の外傷性神経症

戦前の外傷性神経症外傷性神経症は、欧米では、「鉄道神経症」「シェルショック」として鉄道事故や第一次世界大戦など、19世紀後半から20世紀初頭にかけて認知されていた。それに対し、日本では神戸震災のあとPTSDとして認知されて定着した。表面的にみると…

18世紀の人間―機械

Riskin, Jessica, “The Defecating Duck, or, the Ambiguous Origins of Artificial Life”, Critical Inquiry, 29(2003), 599-633.オートマトン作者として有名なヴォーカンソン (Vaucancon) を素材にして出発し、人間の労働の定義と産業革命に象徴される「機…

美の医学的基準は何か

http://hektoeninternational.org/Anatomy_of_beauty.htmlウェッブ上のリソースで、Medical Humanities の記事を掲載しているものがあることを知った。その中で、女性美について19世紀に医者たちがどのように分析したのかという面白い議論があった。著者は、…

女性美の医学的・人類学的研究

必要があって、20世紀前半の医学・人類学が、日本人の身体、特に女性の身体をどのように分析した書物を読む。文献は、C.H.シュトラッツ『日本人のからだ―生活と芸術にあらわれた―』高山洋吉訳(東京:岩崎書店、1954)この書物のオリジナルのドイツ語版は192…