Entries from 2014-11-01 to 1 month

ガレノスとアラビア医学

ガレノスとガレニズムについての論文を二つ、簡単なメモ。 Lloyd, G.E.R., “Galen’s Un-Hippocratic Case-Histories”, in Christopher Gill, Tim Whitmarsh and John Wilkins eds., Galen and the World of Knowledge (Cambridge: Cambridge University Pres…

「若返り法」(榊保三郎)の何が間違っていると考えられたのか

榊保三郎の若返り法 『科学朝日』編『スキャンダルの科学史』(東京:朝日新聞社、1997)より。もともとは溝口元先生が1988年に『科学朝日』に書かれた記事。基本的で有益な論文。榊保三郎は九州帝国大学医学部の精神科の教授で、明治日本の医学と文化におけ…

社会医学史学会会報より

2014年11月に雑誌 Social History of Medicine の27巻4号が刊行され、付録の The Gazette No.67とともに送られてきた。社会医学史学会は、イギリスを主たるベースに活躍している医学史の学会で、その名の通り社会史の視点から見た医学史が主流になっている。…

「東電OL殺人事件」

桐野夏生『グロテスク』(東京:文芸春秋社、2006) 1997年の3月に起きたいわゆる「東電OL殺人事件」に取材した小説。事件そのものは、慶応の経済学部を卒業して東京電力という一流企業に勤務する39歳のエリート女性が渋谷で殺されたというものであるが、彼…

山下清―精神障害者の生活と芸術活動

小沢信男『裸の大将一代記 山下清の見た夢』(東京:ちくま書房、2008) 山下清は日本で最も著名な精神障害の芸術家であろう。1922年に生まれて1971年に没している。その山下のことを丁寧に調べた著作である。学術的ではなく、あえて庶民的な口ぶりで語られ…

共産主義的で中国的な出産法を作ること

Ahn, Byungil, “Reinventing Scientific Medicine for the Socialist Republic: The Soviet Psycho-Prophylactic Method of Delivery in 1950s China”, Twentieth-Century China, 38, no.2, 139-155, May 2013. ソ連では分娩時のある種の痛み止めとして、心…

「怨霊はなぜ消えたか」

山田雄司『怨霊とは何かー菅原道真・平将門・崇徳院』(東京:中公新書、2014) 歴史と怨霊というのは、学術の周辺部で常に一定の人気がある主題である。小松和彦先生たちだったと思うけれども、『鬼の作った国・日本』というようなキャッチーなタイトルの本…

発展途上国の健康と世界経済

Packard, Randall, “Visions of Postwar Health and Development and Their Impact on Public Health Interventions in the Developing World”, in F. Cooper and R. Packard eds., International Development and the Social Sciences: Essays in the Histo…

学術書の筆写について―『ニーダム・コレクション』より

ニーダム・コレクションからもう一つ。988年に書かれたイスラム科学の書物に紹介されているエピソード。アル・ラージーがおそらくバグダードに留学していた中国人の学者と話しているうちに、中国人の学者が帰国する一カ月前にガレノスの著作を筆写して持ち帰…

「ニーダムの問い」-中国の科学技術の特徴と西欧に「追い抜かれた」理由

ジョゼフ・ニーダム『ニーダム・コレクション』牛山輝代編訳、山田慶兒・竹内廸也・内藤陽哉訳(東京:ちくま書房、2009) 生理学を学んだ後に中国科学史の研究者となり、『中国の科学と文明』という翻訳で全11巻の大著をものした偉大な科学史家、ジョセフ・…

日本の産科麻酔の遅れ

山村秀夫『痛みの征服―麻酔科医の誕生』(東京:日本経済新聞社、1966) 先日森脇君のツィートで話題になった産科医。1965年に当時の美智子妃が第二子の礼宮を出産するときに産科麻酔を用いることになったが、その麻酔を行ったのが当時東大の教授であった山…

解剖医ハンターの数奇な生涯

ウェンディ・ムーア『解剖医ハンターの数奇な生涯』矢野真千子訳(東京:河出書房、2013) 医学史研究の学術的な進展が、どのように一般人に反映されるかということについての興味深い事例である。どのようにして、学術研究を踏まえ、複雑な倫理的社会的な要…

電波妄想・アダムとイヴの論争

W.B. シーブルック『アラビア奥地行』斎藤大助訳(東京:大和書房、1943) William Buerhler Seabrook (1886-)はアメリカ人で宗教学を学び、世界に散在する原始宗教についての調査報告を一般の人々向けの読みやすい書物にして出版した。ハイチのヴードゥー教…

精神疾患の治療薬とゾンビ再生の呪薬

ウェイド・デイヴィス『蛇と虹』田中昌太郎訳(東京:草思社、1988). アメリカの民族植物学者がハイチを訪ねて、人をゾンビにさせて再生させる薬物を探し求める物語。ハイチの歴史や現在の社会の特徴も詳細に語っている優れたノンフィクションである。ただ…

日本医史学会・11月例会、合同12月例会のお知らせ

日本医史学会の例会のお知らせです。参加を希望される方は、順天堂大学の医史学研究室にお問い合わせください。12月13日には、順天堂に開設された日本医学教育歴史館の観覧も企画されております。 日本医史学会11月例会 日 時:平成26年11月22日(土) 午後2時…

文学作品の中の精神障害と身体障碍―ブルーノ・シュルツ

ブルーノ・シュルツ『シュルツ全小説』工藤幸雄訳、平凡社ライブラリー(東京:平凡社、2005)より、作品「トド」(353-363ページ)を読む。シュルツはポーランド生まれのユダヤ人の作家・芸術家で、1892年に生まれて1942年に没した。ポーランドを占領したナチ…

戦争神経症と治療の映像(第一次世界大戦期ドイツ)

授業で映像を見せるので予習。 20世紀前半に著名であったドイツの神経学者。もともとはハイデルベルクやベルリンなどのドイツの一流の大学で医学教育を受けた医師・医学者であるが、第一次世界大戦中にドイツ軍の将兵の戦争神経症を診療し、催眠と暗示が有効…

医中誌Web の遡及的なデータ追加

日本における医学史研究の状況ははっきりと改善している。研究体制が整うまでにまだ揃っていないものもあるが、必要なものは徐々に揃ってきている。優れた研究書の登場、論点の形成、アーカイブズの発見、国際的なネットワークの形成などがそれにあたるだろ…

ハンセン病と精神病―二つの隔離収容のシステム

明治維新からの日本における医療の近代化と西欧化について。明治維新以降、医療は西欧化し、近代化する。西欧化が最も順調に進んだのが、医師資格と教育制度である。全国で通用する医師資格という概念が初めて導入される。そこで西洋医学のみが医師資格の基…

『科学史研究』No.271 (2014)

『科学史研究』は日本科学史学会の学会誌であり、1941年に創刊された伝統ある雑誌である。2014年に出版社を変え、編集の方針などもかなり変わって、新しい体制で出発をしている。新しい体制になって3号目となる271号を受け取った。 新しい体制の『科学史研…