Entries from 2014-02-01 to 1 month

服部伸編『「マニュアル」の社会史』(2014)

服部伸編『「マニュアル」の社会史』(京都:人文書院、2014)を頂いた。ドイツのホメオパシーと家事、近世日本の天然痘、近代日本の歯磨きと隣組、20世紀アメリカにおける優生学と女性などの主題について、「マニュアル」という主題を扱った論文を集めたも…

日本の精神医学者の評伝集

秋元波留夫『迷彩の道標―評伝 日本の精神医療―』(東京:NOVA出版、1985) 秋元波留夫の『迷彩の道標』は、呉秀三、松原三郎、内村祐之、門脇真枝、森田正馬、石田昇、林道倫の合計7人の精神医学者についての評伝を集めたものである。この7人の精神医学者た…

青山脳病院の焼失(大正13年)

山上次郎『斉藤茂吉の生涯』(東京:文芸春秋、1974) 大正13年の12月29日、青山脳病院の年末恒例の大相撲の力士を交えての餅つきのあとの火の不始末から、病院と自宅が灰燼に帰した。入院患者は自費55名、公費250名の合計300人で、うち21名が火に巻き込まれ…

治療の科学的・臨床的・経済的・政治的な吟味について(1950年代の結核)

砂原茂一「『きく』か『きかない』かをきめること」『転換期の結核治療―「変わるもの」と「変わらないもの」』(東京:南山堂、1958), 1-33. 重要文献に出会う。対象は結核だが、厚生省と開業医が何を処方するかをめぐって対立した事例を解説し、それを通じ…

日本の選兵と医学(1943)

飯島茂『日本選兵史』(東京:開発者、1943) 氏族制、奈良朝時代の兵農不分離時代、平安時代の過渡期、鎌倉・室町・織豊時代の武士階級、徳川時代の武家世襲制を経て、明治から現代の国民皆兵制へ。 423-426. 明治の徴兵令に対する民衆の抗議である「血税事…

ロックフェラー財団と日本の保健衛生

Farley, John, To Cast Out Disease: A History of the International Health Division of the Rockefeller Foundation (1913-1951) (Oxford: Oxford University Press, 2004). ロックフェラー財団は国際的な医療衛生の慈善を行っていた団体で、戦間期から戦…

松井彰彦『障害を問い直す』と大谷誠・山下麻衣「知的障害の歴史―イギリスと日本の事例」

松井彰彦・川島聡・長瀬修『障害を問い直す』(東京:東洋経済新報社、2011) 松井彰彦「<ふつう>の人の国の障害者就労」松井彰彦・川島聡・長瀬修『障害を問い直す』(東京:東洋経済新報社、2011), 165-194. 大谷誠・山下麻衣「知的障害の歴史―イギリス…

医学における実験室と臨床

医学における実験室と臨床 Sturdy, Steve, “Knowing Cases: Biomedicine in Edinburgh, 1887-1920”, Social Studies of Science, vol.37, no.5, 2007: 659-689. 砂原茂一『えごの実―砂原茂一先生自伝遺稿集』(清瀬:砂原茂一先生自伝遺稿集編集委員会、1989…

結核の自宅療養(昭和30年近辺)

中村隆・石戸谷豊「一般療法」砂原茂一他『日本結核全書 第6巻 治療(1)』(東京:金原出版株式会社、克誠堂出版株式会社、1957)、27-115. 戦後まもなくの結核について、「家庭における療養」108-115からメモ 昭和28年度の厚生省全国結核実態調査によると…

『代替医療解剖』

サイモン・シン, エツァート・エルンスト『代替医療解剖』青木薫訳(東京:新潮社, 2013) サイモン・シンはイギリスで活躍している著名なサイエンス・コミュニケーションの著作家で学者の一人。『フェルマーの最終定理』『暗号解読』などの質が高い評論が国…

精神病学用語統一と精神状態鑑定書―林道倫

林道倫 林道倫(はやし・みちとも・生没年1885-1973)は日本の精神医学者。東京帝大で呉秀三に学び、ドイツに留学して帰国後に岡山医科大学の精神科の教授となるエリートコースを歩いた人物の一人。岡山時代の大きな業績として、正体が分からないまま流行し…

ドイツとソ連が協力したブリヤート・モンゴルの梅毒と精神病の研究(1928)

Solomon, Susan Gross, “The Soviet-German Syphilis Expedition to Buriat Mongolia, 1928: Scientific Research on National Minorities”, Slavic Review, 52, no.2, 1993, 204-232. 1928年の4月から3か月にわたって、ドイツから8人、ソ連から8人の研究者…

Rose, "The Politics of Life Itself" など

Rose, Nikolas, “The Politics of Life Itself”, Theory, Culture & Society, vol.18, no.6, 1-30: 2001. Paul Rabinow and Nikolas Rose, “Biopower Today”, BioSocieties, 1, 195-217, 2006. メモ:いずれもよく読まれている論文。前者はバイオポリティク…

『戦争責任研究』「戦争と心の傷」

蟻塚亮二「沖縄戦のトラウマによるストレス症候群」『戦争責任研究』(81), 2-11, 2013. 北村毅「沖縄戦における精神障がい者のスパイ視と虐殺」『戦争責任研究』(81), 12-21, 2013. 中村江里「日本帝国陸軍と『戦争神経症』」『戦争責任研究』(81), 52-61, 2…

「症例誌」という用語について

「症例誌」という用語について質問がありましたので、簡単に説明します。 「症例誌」という用語は、私が作ったものです。入院した患者の記録は、「病床日誌」・「看護日誌」・「体温表」の三種類の資料を一冊に綴じあわせて保管するのが一般的でした。複数回…

ジェイムズ『アスパンの恋文』行方昭夫訳(1998)

ヘンリー・ジェイムズ『アスパンの恋文』行方昭夫訳(東京:岩波書店, 1998) 偉大な詩人アスパンを研究している文学研究者が、アスパンが愛した女性が年老いて生きていると知って、彼女が住むヴェニスに家に下宿して、アスパンが彼女に宛てた恋文を入手しよ…

「医学史の歌」前篇を作ってみました

「医学史の歌」 1900年まで作ってみました。 ひとつとせ ヒポクラテスはコスの医者 「誓い」は倫理の起源なり そいつぁ神聖病 ふたつとせ フラカストロの「伝染論」 レプラもペストもうつるなり そいつぁシフィリスだ みっつとせ 三つの原質いうならば 硫黄…

戦前期日本の精神病院における収容と治療・1

岡田靖雄先生は、東大精神科を卒業し松沢病院で研究されたあと、精神医療の歴史研究に打ち込み、日本の精神医療の歴史研究を今日の水準まで高めた立役者です。他の研究者に対する時として苛烈な批判にもかかわらず―いや、それだからこそ―多くの研究者に尊敬…

闘病記研究会シンポジウム(3月2日)

闘病記研究会シンポジウム 闘病記を科学する 闘病記は「主観的で個人の体験に過ぎない」というイメージが一般的でした。 では、今まで「科学的」なイメージがなかった闘病記を科学的に分析してみたら、 どんな全体像が見えるでしょうか。患者・家族の体験が1…

ナイチンゲールの声の録音

ナイチンゲールは(1820-1910) は、クリミア戦争(1853-56)の戦地における看護で著名となり、イギリスで看護を改革して新しい看護のモデルを世界に広めた人物である。クリミア戦争時の1854年に起きたバラクラヴァの戦いはイギリス軍の軽騎兵旅団がロシアの要…

山下麻衣編『歴史のなかの障害者』(2014)

サピエンティア 34歴史のなかの障害者 山下 麻衣:編著 障害者とはどのような主体であるのか。何が障害なのか。歴史的な障害生成のプロセスと社会的背景、さらに、障害を持つといわれる人々に対する認識はどのようなものなのだろうか。本書は、日本、ドイツ…

病院の歴史―マンチェスター

病院の歴史―マンチェスター Pickstone, John V., Medicine and Industrial Society: a History of Hospital Development in Manchester and its Region, 1752-1946 (Manchester: Manchester University Press, 1985) 著者はイギリスの医療の社会史を牽引した…

酒井シヅ『絵で読む江戸の病と養生』

酒井シヅ『絵で読む江戸の病と養生』(東京:講談社, 2003) 順天堂大学の医史学研究室の教授として長いこと日本の医史学研究の中心を担い、多くの医学史の研究者にその温厚な人柄を慕われてきた酒井先生の著作の一つである。興味深い図像を解説していく書物…

インテリア小物としての浣腸器

医療器具と骨董蒐集 エリザベス・ベニヨン『西洋醫療器具文化史』児玉博英訳、上・下巻(東京:東京書房社、1982). 昔の医療器具は欧米ではアンティークの骨相蒐集の対象であり、鋏、ランセット、切断用のノコギリ、浣腸器、薬を入れる壺などが、かなりの規…

雑誌 Gene の疾病史特集 

雑誌 Geneが、Historical Medical Genetics II という特集号を組みます。遺伝性疾患の歴史について研究をお持ちの方はぜひ! http://www.journals.elsevier.com/gene/call-for-papers/special-issue-historical-medical-genetics-ii/Call for Papers for a S…

探偵小説とハンセン病

細川涼一「探偵小説とハンセン病--国枝史郎・小栗虫太郎・橘外男」仏教 (50), 122-129, 2000. 細川涼一「ハンセン病と勃興期の探偵小説--正木不如丘と小酒井不木」部落解放 (495), 40-49, 2002. 細川涼一「米田三星論ノート--探偵小説と医学」ヒストリア (17…

昭和戦前期の雑誌『優生学』について

横山尊「昭和戦前期における優生学メディアの性格―雑誌『優生学』を対象に―」『生物学史研究』no.85(2011), 1-20. 昭和戦前期の雑誌『優生学』は私も少しリプリントを読んだが、色々な意味で不思議な雑誌である。まずは雑誌を刊行していた後藤龍吉の正体が分…

"How Mad Are You?" (AAS 2014 Panel)

How Mad Are You? The Asylum, Psychiatric Therapeutic Regimes, and Mental Health Care in Late 19th- and Early 20th-Century China, Japan, and Korea Mar 29 (Sat) 2014, 8:30 to 10:30am Building/Room: Philadelphia Marriott, Level 5 - Grand Ball…

「アンソロポシーン」-人と人体と環境の歴史 CFP

"anthroposcene" という言葉に定訳があるのかどうか知らないが、もともとは「カンブリア紀」や「ジュラ期」のような地質学の時代区分として、ヒトの影響が地球のエコシステムに圧倒的な影響を与えるようになった時代に名称を与えるべきであるという発想のも…

神話的な快楽と身体と性―『遊仙窟』を読んだ

張文成 『遊仙窟』 今村与志雄訳(東京:岩波書店, 1990)『遊仙窟』という作品は、どこかで書名を聞いたことがあるはずだが、意識していなかった作品である。中国は唐代の伝奇小説で、主人公が旅をして深山にはいり、そこで仙女の十娘(じゅうじょう)と、…