Entries from 2015-06-01 to 1 month

20世紀ドイツの「精神病質」の歴史

Eghigian, G. (2015). "A Drifting Concept for an Unruly Menace: A History of Psychopathy in Germany." Isis 106(2): 283-309. 今年度は感染症の歴史の本を読んで講義ノートを作ったり、あるいは医学史の他の領域の本や論文を読んだりする機会が多かった…

相良知安とドイツ医学の導入について

相良知安について 鍵山栄『相良知安』(東京:日本古医学資料センター、1973) 相良知安(1836-1906)は、佐賀に生まれ、幕末の佐倉順天堂と長崎で医学を学び、藩主鍋島直正の侍医となった。明治2年に若干34歳で新政府の学校取調御用掛に抜擢され、新政府の医…

コンドームの歴史

来週の一般教養の歴史学は、15世紀の末からのヨーロッパにおける梅毒の流行と対策の話をする。もちろん医療と疾病の社会史の話で、梅毒患者を中心とした「不治の」患者を収容する病院の話が中心になるが、そこは梅毒とシモの話だから、コンドームの発明の話…

早川智『ミューズの病跡学 I 音楽家篇』『ミューズの病跡学 II 美術家編』

早川智『ミューズの病跡学 I 音楽家篇』(東京:診断と治療社、2002) 早川智『ミューズの病跡学 II 美術家編』(東京:診断と治療社、2004) 歴史上の著名な音楽家と美術家について、どのような病気にかかっていたか、それが作品にどのような影響を与えたか…

松本直美先生「初期オペラにおける精神疾患の表現」のご講演+内海健先生のコメントのご案内

2015年度 第3回研究会のご案内 音楽を主題にした医学史の講演です。ぜひお越しください。 【日時】7月27日 (月)18:00~【場所】 慶應大学三田キャンパス 東館6階G-Sec Lab【タイトル】初期オペラにおける精神疾患の表現【発表者】松本直美(ロンドン大学…

19世紀イギリスのフリーク・ショーと医学の関係

Durbach, N. (2014). ""Skinless wonders": Body Worlds and the Victorian freak show." J Hist Med Allied Sci 69(1): 38-67. 著者は19世紀イギリスで起きた種痘への大規模な反対運動、特に労働者階級の反対を分析した歴史学者であるが、近年は、障碍と奇…

黄熱病とカリブ海の砂糖プランテーション - イミュノ・ヒストリー03

Goodyear, J. D. (1978). "The sugar connection: a new perspective on the history of yellow fever." Bull Hist Med 52(1): 5-21. ヨーロッパとアフリカからなる「旧大陸」とアメリカの「新大陸」の間に感染症の交換があったことを「コロンブスの交換」と…

江戸時代の「幾那」(キナ)について

数日前に江戸時代に「キナ」が輸入されていたのかどうか分からないというようなことを書いたが、ふと、『薬物名出典総索引』を使えばいいのではないかと思いついた。これは、内藤記念くすり博物館の開館30周年を記念して出版されたもので、青木允夫・野尻佳…

江戸時代の人々の何割が梅毒に罹っていたか?

鈴木隆雄『骨から見た日本人―古病理学が語る歴史』(1998; 東京:講談社、2010) 古病理学 paleopathologyは、考古学の一分野で、過去の人々の骨などを調査分析して、彼らが罹っていた疾病などを確定する学問である。通常の歴史文書が残っていない時代や地域…

アマゾンのゴム採集とマラリア

Stepan, Nancy Leys, “’The Only Serious Terror in These Regions’: Malaria Control in the Brailian Amazon”, in Armus, D. (2003). Disease in the history of modern Latin America : from malaria to AIDS. Durham, NC, Duke University Press, 25-50.…

南米スペイン植民地におけるマラリア薬抽出プロジェクト

Crawford, M. J. (2014). "An Empire’s Extract: Chemical Manipulations of Cinchona Bark in the Eighteenth-Century Spanish Atlantic World." Osiris 29(1): 215-229 マラリアの治療薬と化学の関係についての面白い論文。1790年にスペイン王が南米に植物…

『男女淫欲論』(明治12年)と閉じた系のエコノミーとしての男性の性に関連する疾病

扶徳氏撰『男女淫欲論』片山平三郎訳(東京:うさぎや誠、1877-1879) 明治初期にアメリカの書物から翻訳された性医学書。著者の「扶徳」というのはアメリカの医師・医学著者の Edward Bliss Foote で、この書物は、Foote による Plain Home Talk というタイ…

イミュノ・ヒストリーのメモ02 大正期徳島の赤痢・子供の排便・ハエ取り紙

村島鐵男『赤痢予防ニ関スル件報告』(東京:内務省衛生局、1926) 大正期に入って徳島県で多数の赤痢患者が現れ、患者数でいうと多い年の1915年、1923年、1924年には県内合計で1,000人を超える患者が現れ、死者数も毎年100人を超え、1923年には438人の死者…

イミュノ・ヒストリーのメモ01 二つの文明の接触についてヨーロッパの側が作る「神話」

Obeyekere, Gananath, The Apotheosis of Captain Cook: European Mythmaking in the Pacific (Princeton, New Jersy: Princeton University Press, 1992). イミュノ・ヒストリーについて考えをまとめながら本を探しては読んでいる。8月末にイミュノ・ヒスト…

初期オペラの精神疾患の表現 - 医療・社会・文化 2015年度第三回研究会

医療・文化・社会研究会の第三回研究会のお知らせです 2015年度 第3回研究会【日時】7月27日 (月)18:00~【場所】 慶應大学三田キャンパス 東館6階G-Sec Lab【タイトル】初期オペラにおける精神疾患の表現【発表者】松本直美(ロンドン大学ゴールドスミス…

カルテ・症例誌を読むときの見取り図を与えてくれる論文

Hess, V. and J. A. Mendelsohn (2010). "Case and Series. Medical Knowledge and Paper Technology, 1600–1900." History of Science 48(3-4): 287-314. 患者の症例誌が話題になっている。最近では、佐賀医学史研究会が発表・報道した広島・長崎の被爆者75…

「コロンブスの交換」と新大陸原住民の感染症による殲滅

Cook, N. D. (1998). Born to die : disease and New World conquest, 1492-1650. Cambridge, Cambridge University Press. 医学史の主題を授業に取り込もうと思っている方に、いわゆる「コロンブスの交換」の授業をするときに便利な文献の紹介。 ヨーロッパ…

エボラの宿主について―ナショジオの記事

2014年の末に西アフリカでのエボラ出血熱の流行は、約2万7千人に感染、1万1千人以上が死亡するこれまで最大の規模の流行になった。エボラが持つ大きな特徴は、これまでのところ、めったに流行しない疾病であるということである。1976年の最初の発見された流…

『医学生とその時代―東京大学医学部卒業アルバムにみる日本近代医学の歩み』

『医学生とその時代―東京大学医学部卒業アルバムにみる日本近代医学の歩み』(東京:中央公論新社、2008) 東大の歩みを物語る写真集である。東京大学医学部・医学部付属病院創立150周年記念とあるから、1858年にお玉ヶ池種痘所の設立から数えて150年という…

医学と音楽の歴史―オペラと精神疾患についての講演

今年の夏の医学史の講演と、それに関連するイベントのご案内です。 ロンドン大学・ゴールドスミス・コレッジで音楽を教えておられる松本直美先生が、今年の夏に来日され、慶應三田で医学と音楽の歴史についてのご講演をされます。詳細は以下の通りです。 7月…

ニューロ・ヒストリーと「イミュノ・ヒストリー」

若い研究者たちと意見を交換しているときのアイデアをメモ。 先日記事にしたが、今週末に一橋大学でイギリスの精神医療の歴史を研究している高林陽展先生が「ニューロ・ヒストリー」について報告することになっている。高林先生の実力と「ニューロ・ヒストリ…

「ニューロ・ヒストリー」の講演と報告

高林陽展先生が、「ニューロ・ヒストリー」についてのご報告を行います。6月21日14時より一橋大学にて。第235回「歴史と人間」研究会のお知らせ 日時: 2015年6月21日(日)14時より 場所: 一橋大学西キャンパス本館特別応接室 (キャンパス地図9番 http://…

医療・文化・社会研究会 川崎明子『ブロンテ小説における病いと看護』合評会

直前になりましたが、明日6月8日は、川崎明子先生のご著作『ブロンテ小説における病いと看護』(2015)の合評会を開催します。予定と、私のコメントの冒頭部分をアップロードいたしました。皆さまのおいでをお待ちしています。 2015年度 第二回研究会【日時】 …

診断名と病訴の問題

Bentall, R. (2006). "Madness explained: why we must reject the Kraepelinian paradigm and replace it with a 'complaint-orientated' approach to understanding mental illness." Med Hypotheses 66(2): 220-233. 精神疾患の患者に対する理解の仕方に…

文学と医学より論文二点

Kennedy, M. (2014). ""Let me die in your house": cardiac distress and sympathy in nineteenth-century British medicine." Lit Med 32(1): 105-132. Kennedy, M. (2012). "Modernist autobiography, hysterical narrative, and the unnavigable river: …