Entries from 2017-09-01 to 1 month

小さな疑問―この上着は何ですか?

黒田清輝が1909年に描いた寺尾寿(てらお ひさし 1853-1923) の肖像画。寺尾は福岡出身の天文学者・数学者。パリ大学に留学して天文学を学び、東大で天文学を講じて東京天文台の初代台長となった。日本の官僚や経済の名家と深い関係を築いた。黒田がフランス…

大英博物館の会員誌と<記憶の有罪判決>

博物館や美術館の会員になるのが好きだから、大英博物館の会員にはもちろんなっている。特別展に無料で入れるのがメリットだろうけれども、楽しみなのは年に4回刊行される季刊誌である。今回はもちろんスキタイ展の読みごたえがある記事がある。他にもいい…

ケアの神話

昨日書いたクリステヴァのマテリアルから、まず神話を見つけて、それに関するメモを書いてみた。ハイデガーとクリステヴァも挟み込んだヴァージョンも書いておこう。 ******* ケアという言葉をよく耳にします。日本語では看護や介護といったような、もともと…

クリステヴァの分析:人間の創造の神話と医療における人文学

Cultural crossings of care: An appeal to the medical humanities | Medical Humanities BMJ の Medical Humanities より、面白い論考を全部読めるプレゼント。ファースト・オーサーはジュリア・クリステヴァ。私が若いころには神話的なステータスを持った…

新療法が全く効かない事に関する論文(昭和7年)

医学論文を読むと、新療法が出てきてうちの研究室でもやってきたらこうだったという追試の論文をよく読む。すごく効くとか、まあまあだとか、そんな感じの論文を数限りなく読んできた。今回、生まれて初めて、新療法がまったく効かなかったという論文を読ん…

精神病院の患者の診療録(19世紀末)を読んでの詩作

A visit to Brookwood Aslyum in the 19th century | Medical Humanities イギリスのサリー州のブルックウッド精神病院の記録が整理されて目録が公開されている。このような体制を日本でも作り上げて、水準が高い医学史研究ができるようになることを私たちは…

アノイリナーゼ菌と新潟医大のツツガムシ病事件

アノイリナーゼ菌というビタミンB1を破壊して脚気を起こす菌とその保菌者についての論文をたくさん読んだ。 たとえば、高頭、敬子. "腸内腐敗の研究 Ii ". ビタミン 5 (1952): 363-68. この一連の仕事は、1953年に新潟医科大学の博士論文となった。この研究…

ドストエフスキイ「現代生活から取った暴露小説」

Dostoyevsky, Fyodor M. "現代生活から取った暴露小説のプラン." In 後期短編集, 181-94. 東京: 福武書店, 1987.Dostoyevsky, Fyodor M., and 正夫 米川. ドストエフスキイ後期短篇集. 福武文庫. Vol. と0202: 福武書店, 1987. ドストエフスキイは私が「まだ…

大英博物館・スキタイ展

www.britishmuseum.org 大英博物館の会員誌が来た。9月14日からスキタイ人(スキティア人)の文化についての大きな展示があるとのこと。素晴らしい企画で、思わず見惚れてしまう。これと関連して、11月から「神々と生きること」という企画が始まる。世界各地…

アフリカのグローバル・ヘルスー公衆衛生業務者のための歴史・人類学のテキスト

Giles-Vernick, Tamara, and James L. A. Webb. Global Health in Africa : Historical Perspectives on Disease Control. Perspectives on Global Health. Athens: Ohio University Press, 2013. Lachenal, Guillaume. "A Genealogy of Treatment as Preven…

戦前と戦後の医学研究の短期的な格差

石橋卯吉・村野廉一「健康人ノぢふてりー保菌率ニ関スル研究」『日本微生物学病理学雑誌』31(1), 1937, 99-103. 伊與雄二「蠅の保菌数に関する研究」『十全医学会雑誌』52(4、5、6)、1950、29-37. 日本の細菌学に関する研究をしているせいで、731部隊…

顔の女性化のための美容外科手術の歴史

www.amazon.co.jp デューク大学出版局から医療人類学者の論考が刊行された。Facial Feminization Surgery を描いたものである。これは、顔の女性化のための美容外科手術と訳すのだろうか。英語では FFSと略されている。ネットで検索すると、英語では性器のう…

第69回正倉院展と異国的な文章

www.narahaku.go.jp この10年くらい、正倉院展に行くという小さな贅沢をしている。色々と好きな個所があるが、一つが文章である。予告の文章やカタログを飾る文章は、不思議な文章で、おそらく名文と言ってもよい。私には全く読めない漢字、聞いたことがない…