近代のハンセン病


 19世紀から20世紀のハンセン病の歴史を、世界中に目を配って記述した本を読む。

 この書物は学術書ではないが、とても質が良い一般向けの歴史書である。時代は19世紀から20世紀、地域はカナダ、ノルウェー、ハワイ、インド、日本、シベリア、キューバ、そしてアメリカのハンセン病について、テーマを絞ったリサーチをピンポイントで10件くらいして、ヴィヴィッドに描いている。日本では熊本のハナ・リデルと、らい予防法の撤廃が、2章にわたって扱われている。ハナ・リデルについての記述は、他の章と較べると、見劣りがしたような印象を持った。これは、他の章が読んでとても面白いというプラスの評価である。 また、これだけの地域の話を、一冊の本で読めるのはありがたい。

 特に面白かったのは、ルイジアナのカーヴィルにあった収容院での恋物語。患者の新聞を発行して患者運動のリーダーだったスタンリーと、後に『カーヴィルの奇跡』を書いた美人の元患者のベティー。どちらも、本名ではない。本名は入院したときに捨てさせられ、その代わりに自分で新しい名前をつける。この章の記述はとても生き生きとしていた。二人は、出会って、恋に落ちて、脱走して、外の世界で暮らし始める。しかし、色々な事情で、二人は収容院に戻る決意をする。そのときに、脱走以来呼び合っていた本名でなく、再び収容院でつけられた名前で呼び合うことを決めたそうである。 真偽のほどは別にして、ちょっと美しすぎる話である。誰かが、結核と白血病はドラマになるのに、ハンセン病はならないと言っていたが、ハンセン病だってドラマになっているじゃないか。 ドラマにならないのはコレラくらいのものだろうか ・・・『ヴェニスに死す』は、あれはコレラと言えないし。

文献はGould, Tony, Don’t Fence Me In: From Curse to Cure. Leprosy in Modern Times (London: Bloomsbury, 2005).
画像は、『カーヴィルの奇跡』の著者の「ベティ・マーチン」