新しい病院建築


 ポストモダン医療における病院建築の心得を説いた書物を読む。

一昨年、都心の大学病院で、あれはなんだったのだろうか、とにかく40歳になると必要な中年病の検査をした。検査自体も筆舌に尽くしがたい拷問だったのだけれども、その検査を受けるオフィスに行くまでの進路がすごかった。正面玄関を入ると、「健診はこちら」とか書いてある紙が貼ってある。その順路に従っていくと、工事中のような中庭を通って、プレハブの掘っ立て小屋へ。その小屋の中で医者に会って、薄暗い廊下をくねくねと戻って検査室へ行く。その過程全てが「刑の執行」の雰囲気を盛り上げていた。

この書物は、まさにそういう病院を批判して、より患者にとって魅力的な病院・ヘルスケア施設を建設するにはどうしたらよいか、という建築家・設計者向けのマニュアル本である。医療が激しく商業化・市場化されているアメリカらしく、著者たちが「ビジネスの言語」と呼ぶもので塗り固められている。「患者の権利」「治療からケアへ」「需要に会わせた医療制度の改革」「ウェルネスの尊重」などの理念が、市場原理の中でどう建築として具体的な形を取るかを目の当たりにできる。写真と図版も沢山あって、見て楽しいし、病院空間の意味を分析するのに慣れることができる。念のために断っておくと、この本は学術書ではなく、成功したい建築家のための心得本である。

 この本の中で紹介されているアメリカの新しい病院は、どれも目を見張るものだ。(図版にこの本の表紙を掲げておいたが、これも病院である。)例えば、「ショッピングモールのモデルに従って建築された病院」など、私は行ったことがない。「自然光が降り注ぎ、明かりのレヴェルは、リヴィングルームのそれに調節されていてくつろげる雰囲気の病院」も、ちょっと思い浮かばない。皆さんは、そういうポストモダンな医療のレトリックに満ち溢れた病院に行ったことがありますか?

文献は、Miller, Richard L. and Earl S. Swensson, Hospital and Healthcare Facility Design, 2nd ed., (New York: W.W. Norton & Company, 2002).