フェミニズムと精神病院への不法監禁

 19世紀のイギリスで、夫によって精神病院に不法監禁された妻が書いた告発パンフレットを読む。 文献は Bulwer-Lytton, Rosina, A Blighted Life: A True Story (1880; rept. with introduction by Marie Mulvey Roberts (Bristol: Thoemmes Press, 1994).

 19世紀イギリスの文人にして政治家のエドワード・ブルワー=リットンの妻、ロジーナは、1858年に夫によって精神病院に不法監禁される。ロジーナは、1836年以来別居していた夫を数々の小説で攻撃し、夫婦の対立は深まっていた。別居後の生活費の額が発端となり、母親(アン・ホィーラー)譲りのフェミニズム思想で、家庭における女性の隷属を批判するロジーナにおる夫の攻撃はエスカレートする。夫の選挙運動を妨害するキャンペーンを選挙区で行うというスキャンダラスな行為に我慢できなくなった夫が、彼女の口を封じるために最後の(非合法の)手段に訴えたのが精神病院への監禁である。夫の目論見ははずれ、むしろ騒ぎが大きくなったために、ロジーナは3週間後に解放される。彼女は事件から8年後にこのパンフレットを執筆し、そしてさらに15年ほど経った後、事件から20年以上経ってから、彼女の許可なしに - 少なくとも彼女はそう主張している - 実名入りで当時の経緯を描いたパンフレットが出版される。これは、新たな不法監禁反対と法律改正の波のうねりがあった時局への対応である。二重の意味でレトロスペクティヴなテキストというわけである。

 話としては、犯人が誰なのか、そして何が起きるのかが完全に分かっているミステリーを事件からだいぶ後に話すわけだから、この手の主題を扱ったフィクション(たとえばコリンズの『白衣の女』とか)によくある謎解き型とは全く違う戦略で物語を作らなければならない。だからロジーナは、時間の流れに沿って事件を語るというスタイルを取りつつ、レトロアクティヴに判明した事実についてのコメント-主として夫とその仲間の男性たちの悪口雑言を至るところに挿むという物語にしている。