ルダンの悪魔憑き


 ルダンの悪魔憑きについてのミシェル・ド・セルトーの書物を読む。文献は、Certeau, Michel de, The Possession at Loudun, translated by Michael B. Smith, with a Foreword by Stephen Greenblatt (Chicago: University of Chicago Press, 1996).

 1632年の9月のことである。パリの南西250キロほどにある小都市ルダンで、ウルスラ会の修道女たちが幻覚を訴え始めた。二年後に司祭ユルバン・グランディエを妖術師として処刑することになる、ルダンの悪魔憑き事件の始まりである。セーラムの魔女狩りと並んで非常に有名な悪魔憑き事件で、オルダス・ハックスリーも歴史小説に仕立てた。

 この事件に関して、セルトーがとても面白いフォーマットの本を書いている。事件の基本ストーリーはよく知られているから、わざわざ最初から語る必要はない。マテリアルが非常に面白いので、長めの引用で資料の「さわり」を読めるのが嬉しい。全体の2-3割くらいが引用だと思う。(一番面白かったのは、なんと言う名前の悪魔がどの修道女たちの身体のどの部分についているかという一覧表だった!)そして、セルトーの才気溢れる警句風の鋭い洞察を、論理の流れに関係なく安心して読める。当時の面白い引用を楽しみながら、宗教改革とフランスの国家建設を背景にして、言語の問題、真理の問題、身体の問題、驚異の問題などの科学史と思想史の中心問題についての、インスピレーションを掻き立てる小気味よい警句を楽しむことができるわけだ。あと5年くらいしたら、アカデミックでない本を一冊書こうと思っているが、このフォーマット自身とても参考になった。 

画像は、ジャック・カロ「聖アントニウスの誘惑」