体格と気質と合成写真



 クレッチマーの体格と気質論に目を通す。文献はエルンスト・クレッチマー『体格と性格―体質の問題および気質の学説によせる研究』相場均訳(東京:文光堂、1969)

 クレッチマーの肥満型・細長型・闘士型の体格の三分類は、体格と気質の関係についての有名な古典的な議論である。初版は1921年に出版されている。この翻訳は1955年に出版された第21版(!)からである。もともとクレペリンの躁うつ病と早発性痴呆の二大精神病論に基づいた議論で、それぞれの精神病患者の体格を調べてみたところ、躁うつ病には肥満体格が、早発性痴呆には細長型と闘士型が多いという鮮やかな結果が出た。ここから精神病患者の病前の性格や、患者ではない通常人の性格(気質)などに話を広げて、人間の体格と性格についての総合的な論考になっている。読んで楽しい議論が多い。特に、砂場に人形と模型であなたが好きな光景を作ってくださいという心理テストで、幸福な家庭を中心とした調和がある丸型の共同体や「片隅の幸福」と題する世界を作り上げた肥満型、夢中になって中隊司令部の防御戦線を築いた細長型、そして心理テストの時間通りに現れることができなかった闘士型の話など、まるでコントのようだ。

 その中ではっとしたのが合成写真の話である。合成写真が精神医学や犯罪人類学に使われた例としてはロンブローソやゴルトンが有名である。(ちなみに、クレッチマーはロンブローソが犯罪を変質理論で説明しようとしたのに対して批判的である。)ゴルトンは「合成写真」というテクニックを編み出して、何枚かの写真を重ね合て「型」を客観的・視覚的に抽出する手法を作り出した。「典型的なユダヤ人の顔」「典型的な犯罪者の顔」「典型的な犯罪者の頭蓋骨」などの「作品」が知られていて、20世紀の人種理論や優生学を考える上で欠かせないマテリアルになっている。20世紀の心理学の専門家にとっては常識かもしれないけど、このテクニックが1953年になっても使われていたというのに少し驚いた。クレッチマーが、ダヴィート・カッツという私が知らない戦後の心理学者の仕事を引用しているのだが、そこでは肥満型と細長型の人物の写真を合成して、それぞれ一つの「型」を作っている。 

 画像はカッツの肥満型・細長型の合成写真。クレッチマーのテキストから採った。もう一つはゴルトンの「典型的ユダヤ人。

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