コレラと水際の集落

 本当はそんなことをしている暇はないのだが、半ば現実逃避的にコレラのインスピレーションを求めて水辺の暮らしの文献を読み漁る。文献は谷沢明『瀬戸内の町並み』(東京:未来社、1991)

 ペストが一段落して次はコレラである。(本当は次の次の次くらいだけど。)まだ組織的なリサーチはしていないが、流行の一つの焦点は漁業であり漁村であることは間違いない。なぜ漁村・漁業なのだろうか?ということは、この半年ほど気になっていた。そして、目からうろこが落ちる瞬間というのは、突然やってくるものである。『瀬戸内の町並み』の15-16ページには次のように書かれている。

 「[寄港地としての港町には]、背後に山や丘陵を控え、前方が島や岬の鼻に抱かれた、風当たりの少ない入江が利用されることが多い。・・・また船が寄港するには飲料水となる水があることが重要になる。・・・瀬戸内では水の確保に大変な苦労をはらった。とくに、島嶼部の場合、地下水が少なく、水の湧く場所は限定されている。集落が作られるところは、周知の通り水を得やすいところであるが、港町の場合もその例外ではない。一般に、小さな丘と丘に挟まれたくぼ地に水が湧くことが多く、そこに共同井戸を掘って、周囲に人家が立ち並ぶ傾向がみられる。」

 急峻な山が海まで迫る入江に面しているから、平野部は狭く、人家はもともと建て込んでいる。そこにもってきて、数少ない共同井戸の周りに密集して暮らす人々。感染源を共有する人が多いから、そこに病原菌が持ち込まれると一度に多くの患者が発生し、そして連鎖反応的に大きな流行になる・・・ もしかしたら、これは当たっているかも・・・?