『八つ墓村』ほか

 旅行中の雑駁な読書の紹介が続く。今回はぐっとポピュラーに、ベストセラー推理小説である。横溝正史『悪魔の手毬唄』(東京:角川文庫、1971)

 しばらく前に『津山三十人殺し』の優れたノンフィクションを取り上げたときに、この事件は『八つ墓村』のモデルになっているが、私は『八つ墓村』は読んだことがないとブログに書いた。知らないことをそのままにしているのも落ち着かないし、旅行中で半端な時間がありそうだから、『八つ墓村』と他の幾つかの横溝作品を買って読んでみた。その一つである。飛行機の中で読んだ。横溝正史の推理小説ってこういうものだったのか、というのが正直なところである。 出生の秘密、「家」をめぐる怨念、倒錯、土俗、病理。 執筆当時には消えつつあった田舎と日本の伝統社会を pathologize したわけですね。 

 横溝作品では、殺人事件の現場に力点が置かれている。死体が奇妙な処理をされていたりして、その演出に犯人のメッセージや謎を解く鍵も隠されている。このあたりには、戦前から始まった「エログロ」法医学のセンセーショナル化・大衆化が濃厚に反映されているのだろう。既に多くの研究者が指摘しているが、ヨーロッパではポルノグラフィも推理小説も、医学書や医学論文はと密接な関係を持ちながら発展してきた。このあたりの事情を日本の近代で研究した成果がぱっと読める研究書はないかしら?『日本推理小説と変質学説』とか。