ロボトミーの伝道師


アメリカにおけるロボトミーの第一人者、ウォルター・フリーマンが他の精神科医のことをエッセイ風に書き散らした本を読む。文献は、Freeman, Walter, The Psychiatrist: Personalities and Patterns (New York: Grune and Strutt n, 1968).

 アイスピック片手に「ロボトミーの福音」をアメリカ中に広めた精神外科医、ウォルター・フリーマンは、気さくな面白いキャラだったらしい。あるいは自分がしていること(同意なき非可逆的な人格改変)の深刻さに病理的に無神経だったのかもしれない。(おそらく、後者が現在の精神科の医者と一般の人々との間での合意だろう。医学史の研究者たちの解釈は、よりニュアンスがあるものだと思うけど。)先日森羅万象さんもコメントで書いていらしたが、ジョン・F・ケネディの一つしたの妹、ローズマリーが23歳のときに、彼女の慢性的情緒不安定を解消するためにロボトミーを行い、大失敗したのはフリーマンである。そして、女優のフランセス・バーカーが精神病院入院中にロボトミーを行ったといううわさがあるのもフリーマンである。 このあたりのことは、Wikipedia のフリーマンの項目と、そこかた辿れるリンクに詳しく書いてある。 

 本書はフリーマンが現役を退き、自分と同時代の「精神科治療の英雄時代」のつわものたちを、闊達に論じた随筆である。ここで論じられている医者たちもフリーマン自身も、この書物の執筆の時点では「堕ちた英雄」になってしまったことを考えると、そのトーンは驚くほど明るい。 

 その中で、フリーマンが非常に否定的に書いているのが、インシュリンショック療法のザーケルである。これは療法というよりも、ザーケルの人柄が攻撃的で猜疑心が強く名誉欲・独占欲が強いという批判である。(状況が許せばザーケルにロボトミーを施したいとでも思っていたんだろうか・・・笑)