『脳病院へまゐります』

 順序が前後したが、旅行中に読んだ雑駁な読書の話をもう一つするのを忘れていた。文献は、若合春有(有はにんべんに「有」)『脳病院へまゐります。』(東京:文春文庫、2003)脳病院の研究をしているのに、まだ読んでいなかったの!と驚かれそうだけれども。

 読み始めてしばらくして、この小説の主人公は実際に脳病院に行くわけではないのかと気がついて少し残念だったが、エスカレートしていくSMの記述にはらはらしながら読んだ。 肉体的にも身体的にもハードなSMの関係の深みに沈んだ女が、男に書く手紙の形式を取っている。「私は、南品川のゼームス坂病院へまゐります。苦しいのは、まう沢山だ。」 (ゼームス坂病院は実在の脳病院で、高村智恵子が晩年の三年間をすごした病院である。) 

 最近、20世紀初頭の医学がややアングラ系がかかった文化人たちに注目されている。しばらくまえに「衛生博覧会」のリサーチをしたときも、衛生博覧会を名乗る、あるいはそのイメージにインスパイアされたイヴェントの多さに驚いた。「脳病院」brain hospital もブレイクするだろうか?