エジンバラの性病コントロール

 新着雑誌から。たまたま昨日のエントリーの続きになっている。文献はLemar, Susan, “’The Liberty to Spread Disaster’: Campaigning for Compulsion in the Control of Venereal Disease”, Social History of Medicine, 19(2006), 73-86.

 1920年代のエジンバラにおける性病コントロールの方式をめぐる論争と、強制治療派の敗北のエピソードを取り上げた論文。専門家には当然として省略されている史実が多すぎて、事実関係が分からない部分があったが、話の流れは面白い。ボールドウィンのモデルへの批判的な長い注釈の中から、新しい論点を作っている。

性病をどのようにコントロールするかという問題で、重要なのは強制治療(場合によっては病院収容)か、治療院を準備して後は患者による自発的な受療に任せるかということはスコットランドでも論議の対象になった。治療院があまり使われていないことに端を発して、強制治療に切り替える法律が提案されたが、結局この提案は1928年に否決され、自発的な治療システムが保たれた。このエピソードを、ボールドウィンらのように、国家とその支配の対象との関係に関するイデオロギーという枠組みで観るのではなく、強制システムの実行可能性に関する疑いなどを含めた、エリートたちの内部抗争の枠組みで見るのが適切であるというのが、この論文のポイント。